第二十六話 妹の学園発表会! 兄たちの応援が熱すぎて大混乱!?
春の陽気に包まれた王立初等学園の講堂には、華やかな装飾が施され、貴族や学園関係者たちが一堂に会していた。今日は年に一度の特別行事──発表会の日。
アリアもその中の一人として、クラス代表として簡単な詠唱発表をすることになっていた。
「……うう、緊張してきた……」
舞台袖でそわそわと落ち着かない様子のアリア。だが彼女の不安を吹き飛ばすように、あの頼もしき二人が颯爽と現れた。
「アリア、大丈夫だ。お前の努力はちゃんと見てきた」
ノアが静かに声をかけ、そっと彼女の肩に手を置いた。
「お前が詠唱するなら、俺たちは全力で応援するだけさ!」
レオンは元気よく拳を突き上げる。
学園職員たちが思わず視線を送るほど、彼らは“張り切って”いた。
講堂の一角、来賓席で異様な存在感を放つ二人の青年。
「レイフォード家の……あれがノア様とレオン様か」
「うわ、本当にいた。妹の応援に来たって噂、本当だったんだ……」
学園生徒たちがヒソヒソとささやく。
ノアは双眼鏡を構え、資料を手元に並べ、まるで審査官のような姿勢。
レオンに至っては『がんばれアリア!』と書かれた手作り横断幕を広げ、周囲の貴族たちを唖然とさせていた。
「レオン、お前、それはやりすぎだ」
「応援ってのは“気持ち”が大事なんだよ!」
いよいよアリアの出番が訪れる。
スポットライトを浴び、舞台中央に立った彼女は一瞬、観客席に目をやる。
そこには、誰よりも大きく手を振る兄・レオンと、じっと真剣に見守る兄・ノアの姿が。
──私は、一人じゃない。
そう思えた瞬間、緊張がふっと軽くなった。
「光よ、祝福の息吹となりて──」
澄んだ声が講堂に響き渡る。詠唱魔法は完璧だった。
観客から拍手が沸き上がり、舞台袖では教師たちが感嘆の息をもらす。
だがその裏で、別の騒動が起きていた。
レオンの応援があまりに大きすぎて、後ろの席の来賓たちが完全に視界を遮られ、
「……あの、少し静かにしていただけますか」
と注意され、すごすごと横断幕を畳む羽目に。
「だから、団扇にしておけと言ったのに…」
ノアはノアで、「詠唱の安定性は成長著しい。次は炎属性も試すべきか」などと、記録用紙に真面目にメモを取り、教師陣から妙な視線を集める。
発表会終了後、アリアは舞台裏でふたりの兄と合流した。
「アリア、すごく良かった!」
レオンは満面の笑みで彼女を抱きしめる。
「お前らしさが出ていた。堂々としていたぞ」
ノアも穏やかに頷いた。
「ありがとう、お兄様たち……でも、応援、ちょっと目立ちすぎじゃない?」
「……うっ」
「……そ、そんなことないぞ。俺は……全力を出しただけだ!」
アリアはぷっと笑い、首を横に振る。
「もう、本当に……ふたりとも、大好き!」
学園に春の光が満ちる中、三人の笑顔が、ひときわまぶしく輝いていた。




