第百六十五話 兄ィズ、脱走計画第二章!
メイド隊 vs レイフォード兄弟!?**
アルヴエリア王立士官学園――整備班詰め所。
ここは今日も、静かで、落ち着いていて、
――とても平和……のはずなのだが。
「よし、レオン! 今日こそ帰国するぞ!!」
「いやムリでしょ兄貴!? 昨日、カティアさんに“反省レポート百枚”課せられてたよね!?」
整備班の片隅で、ノアが机を叩き、レオンは書類を抱えて震えている。
そこに、気配もなく すうっ と影が差した。
「おや……まだ“脱走計画第二章”を続けるおつもりなのですか?」
メイド長代理・カティアが、目を細めて立っていた。
背後にはアシュリー、リリア、アネット。
そして補助メイドのミーナは、いつものように小声でメモを取っている。
ミーナ
「本日の兄ィズ:逃亡願望、悪化。――っと」
アネット
「ミーナ、それ書く必要ある?」
ミーナ
「後のためになりますので……(こくり)」
ノアは両手を腰に当て、堂々と宣言した。
「メイド隊にだって、俺たちの帰国は止められない!
アリアが帰国して寂しがってるに違いないんだ!!」
「いや絶対寂しがってないと思うよ兄貴……。
むしろ“静かで助かりますわ”って言ってる顔が浮かぶ……」
「レオン黙れ!」
カティアは一歩前へ出て、にっこりと微笑んだ。
「それでは――お二人に“追加任務”を差し上げます」
「「ぎゃああああああああ!?」」
◆ 追加任務の内容
アシュリー
「こちら、“学園中庭の落ち葉拾い五千枚”です」
リリア
「こちらは“魔導具倉庫の棚卸し(期限:本日中)”です」
アネット
「さらに“逃亡防止の見張り表作成(詳細版)”もお願いしますね」
ミーナ
(こくこく頷きながら)
「確認用に……“逃亡計画反省文”のテンプレも作りました……」
ノア「おい……! なんで俺たちが反省文テンプレ作成まで……!」
レオン「兄貴……もう無理だよ……この人たち絶対プロだよ……」
カティア
「では――作業開始でございます」
ぱん、と手を叩くと同時に、
――兄ィズの肩をがっしり捕まえるメイド隊。
「待てぇぇ!! 帰るんだッ! 妹のために!!」
「兄貴ぃぃ! もう観念してぇぇ!!」
整備班の扉が、メイド隊に引きずられていく兄弟の悲鳴とともに閉じられた。
◆ そのころ、遠くルヴァリア伯爵邸では……
アリアは、春の庭に面したテラスで、お茶を飲みながら手紙を読んでいた。
クラリス
「お嬢様、それ……お二人からのお手紙ですの?」
「ええ……読みますわ……読みますけれど……」
アリアは静かに封を切った。
手紙:ノアより
『アリア、安心してくれ。
“妹防衛同盟・第二章”は順調に進んでいる!
ただ、少々メイド隊の妨害があり――(以下、悲鳴とにじんだインク)』
アリア
「………………」
メイベル
「……お嬢様、今はそっと閉じておいたほうがよろしいかと」
「……そうしますわ」
◆ そしてアルヴエリア学園・夕刻
作業を終えた兄ィズは、抜け殻のようになって座り込んでいた。
ノア
「……これ……メイド隊……本気すぎる……」
レオン
「兄貴、今日の落ち葉……俺、途中で悟り開きそうだったよ……」
そこへ、カティアが優雅に現れる。
「お疲れ様でございました。
なお、明日は“追加任務・第二弾”を予定しております」
「「明日もあるの!?!?」」
ミーナ
(こっそりメモしながら)
「兄ィズ:明日の脱走確率……0%……っと」
◆ アリアは再び手紙を受け取る
クラリス
「お嬢様……またお二人からお手紙でございます」
アリア
「……まあ、今日も、ですの?」
封を開けると、紙いっぱいにこう書かれていた。
『メイド隊、強すぎる。助けてくれ。
――兄より』
アリア
「………………知りませんわよ、そんなの」
しかし頬は、かすかに緩んでいた。




