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第百六十三話 妹防衛同盟、始動!?――兄ィズ、帰国を画策す!

 アルヴエリア王立士官学園・整備班作業棟。

 今日もネジと油の香りが漂う中――いや、漂ってはいけない別の香りがしていた。


「……レオン。聞いたか?」

「ええ。ルヴァリア王都で“アリア様凱旋祝賀パーティー”開催だそうです」

「――ぬうっ!!」


 ノアの眉間にバリッと皺が走る。

 レオンは静かに紅茶を置き、ため息をついた。


「しかも、王太子アルヴィン殿下も出席とか……」

「なんで奴が出る!!」

「いや、“王族同士の親睦”らしいですよ?」

「うち貴族だからっ!! 伯爵家だからっ!! 王族じゃないのに!!」


 机がガンッ!と鳴った。

 整備班の仲間たちはそろそろ慣れたようで、誰も振り向かない。


「レオン、これは重大事態だ……!」

「同感です兄上。あの殿下、笑顔で裏をかくタイプですからね」

「そう! 腹黒笑顔タイプ!」

「妹の無垢な心を惑わせる悪魔の微笑です」

「許せんッ!!」


 二人の視線が交錯した瞬間――

 どこからともなく、鋭い声が飛ぶ。


「お二人とも。落ち着いてくださいませ」


 背後の扉のところに立っていたのは、黒いメイド服の一団。

 アリアの兄ィズの行動監視に派遣された五人の精鋭――


 メイド長代理カティアを先頭に、

 冷静沈着のアシュリー、

 頭脳派のリリア、

 情報収集担当のアネット、

 そして、補助メイドのミーナが小声でメモを取っている。


「……またアリア様関連ですね?」

 カティアの静かな声。

「べ、別に! 報告を聞いてただけだ!」

「“妹防衛作戦”の地図を描きながら?」

「そ、それはっ……学術的資料だ!」

「整備班の壁に貼り出すつもりだったんですよね?」

「レオン!! お前なぜ喋る!!」

「口が滑りました」


 五人の視線が冷たい。

 ノアとレオンは同時に背筋を伸ばした。


「……で、何をしようとしていたのです?」

 カティアの声が低くなる。

「……別に、ちょっと、ルヴァリアへ、様子見に……」

「“様子見”とは飛空艇を出すことを指すのですか?」

「ぎくっ」


 レオンがそっと目をそらす。

「まさか整備班の飛行艇を“妹迎え用”に改造していたりは?」

「……ちょっと、荷台を広くしてただけです……」

「兄上、それ“アリア専用ティータイムスペース”って書いてますよね」

「レオン黙れぇぇぇ!!!」


 メイド隊が一歩前に出た。

「お二人とも、ルヴァリア王国への無断帰国は絶対に許可できません」

「ぐっ……!」

「整備任務はまだ残っておりますし、王室筋にも報告が届きますよ」

「うぐぅぅぅ……」


 リリアが手帳を開く。

「帰国理由:“妹が寂しいかもしれない”。」

「なんで知ってるんだ!?」

「前回も同じ理由で申請却下されましたから」

「うぐぅぅ……」


 リリィが口を開く。

「でもまあ……アリア様も大変ですよねぇ」

「なに?」

「だって、お二人が帰国したら“過保護地獄”再来ですよ?」

「そ、そんなことはない! 我々はただ妹を見守るだけだ!」

「見守る(監視)」

「ちがっ……あっ、ちがう! 愛の保護観察だ!!」

「それを世間では“過保護”と言うんです」


 カレンが両腕を組んで頷いた。

「よって、我々は、帰国作戦を全力で阻止します」

「ティナ、拘束用の結界、用意して」

「はーい。兄上方は今日も元気ですしね♪」

「や、やめろティナ、結界はやめろっ!!」


 床に魔法陣が光る。

 ノアとレオン、逃げようとした瞬間――


 ビシィィィィン!!


「ぎゃあああああああ!!」

 兄ィズ、拘束。


 床の上で転がりながら、ノアがうめく。

「お、俺たちはただ……妹の笑顔を……」

「守りたかっただけだろ……」

「わかってますよ」

 カティアが静かに微笑んだ。

「ですが、アリア様の笑顔は――お二人が“おとなしくしてる時”が一番輝くのです」

「……うっ」

「ぐぬぬ……それは否定できない……」


 結界の中で、兄たちは力尽きた。


「レオン……次の整備報告書の目的地、どうする?」

「……“偶然、ルヴァリア方面の気圧調査が必要になりました”でどうでしょう」

「よし、それだ……次こそ、帰還する!」

「“妹防衛同盟”は、不滅です!」

「おおおぉぉぉ!!!」


 結界の中で叫ぶ二人を見て、メイド隊五人は同時にため息をついた。


「……しばらくこのまま放っておきましょう」

「はい、魔力が尽きるまでおとなしくしてもらいます」

「あなたの魔力?」

「いえ、二人の、ノア様とレオン様の魔力を利用しているのです」

「凄いわね」

「それでは……。」

「紅茶でも淹れましょうか」

「では私、アリア様に“兄上方は今日も元気です”と報告しておきます」

「ええ、きっとまた喜ばれますわ」


 ――こうして、アルヴエリアの片隅では、

 妹を想う兄たちと、それを止めるメイドたちの静かな攻防戦が繰り広げられていたのだった。

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