第百五十九話 祝賀会の陰で――
――アルヴエリア王立士官学園、大広間。
「我らが妹にぃぃぃ――乾杯だぁぁぁぁぁ!!!」
「ルヴァリア王国ばんざぁぁぁい!!!」
ノアとレオンの雄叫びで、祝賀会は再び混沌へと突入していた。
床は水浸し、花束は宙を舞い、メイド隊は悲鳴を上げる。
「ノア様っ! テーブルに乗らないでくださいっ!」
「レオン様、そのワイングラス何個目ですか!?」
「ええい! 今日は妹の晴れ舞台だ! 飲まずにどうする!!」
「そのセリフ、昼にも聞きました!!」
ミーナを筆頭に、カティア、アシュリー、アネット、リリアが総動員。
誰かがノアを引きずり下ろせば、レオンが逃げる。
レオンを捕まえたと思えば、今度はノアが「妹の勝利記念パレード」を始める。
「兄さまたち……お願いですから落ち着いてください……!」
アリアは額に手を当て、やれやれと肩をすくめる。
けれどその目元は、やっぱり優しく笑っていた。
◇ ◇ ◇
「それにしても、アリア様……ほんと、立派でしたね」
ミーナがそっとワイングラスにジュースを注ぎながら言う。
「去年の大会より、ずっと堂々としていらっしゃいました」
「ふふっ、ありがとうミーナ。でも……」
アリアは笑いながらも、ちらりとノアとレオンを見る。
兄たちはすでに椅子の上で「妹勝利の舞」を踊っていた。
「やっぱり、こうなるのよね……」
「これがレイフォード家の日常ですわね」
カティアが苦笑し、リリアがため息をつく。
「……あの二人、整備班としてアルヴエリアで真面目に働いてるって聞いたのに」
「多分、“妹関係”になると理性が蒸発するんですのよ」
「蒸発って言うな!」
ノアがなぜか聞きつけて抗議するが、すぐにまたレオンと乾杯を始めた。
その様子に、アリアは堪えきれず吹き出す。
「もう……本当に、にぎやかなんだから」
◇ ◇ ◇
夜も更け、会場がようやく落ち着き始めたころ。
兄たちはメイド隊に両脇を抱えられ、廊下の隅で冷やされていた。
「……ノア様、少しは反省を」
「むぅ……反省の前に、妹の勝利をもう一回祝いたい」
「レオン様もです!」
「次は“妹の笑顔に乾杯”タイムをだな――」
「禁止ですっ!!!」
ミーナが即座に封じた。
その厳しい表情に、周囲のメイドたちは拍手を送る。
「やっぱり、ミーナが一番頼りになるわ」
アリアがそっと笑って言うと、ミーナは顔を真っ赤にして頭を下げた。
「お嬢様にそう言っていただけるなんて……もう何でも頑張れますっ!」
「なら、兄さまたちを寝かしつける係、お願いね」
「えっ!? ね、寝かしつけ……!? あの暴走兄ィズを!?」
「お願い♡」
「う、うぅ……! 了解しましたっ!!」
◇ ◇ ◇
祝賀会の夜、アルヴエリア学園の空には満月が輝いていた。
アリアはその光を見上げながら、小さくつぶやく。
「……本当に、来てよかった」
故郷ルヴァリアから遠く離れたこの地で、
また新しい友達と出会い、挑戦して、そして――
家族の愛をたっぷり受け止めた一日。
明日もきっと、にぎやかで楽しい日になる。
そう信じながら、アリアは静かに目を閉じた。
その横で――。
「ノア兄さま、寝言で“妹ばんざい”って言ってます」
「レオン様は“整備班で祝賀花火を作る”とか言ってる……」
「だ、駄目ですっ!! 明日は絶対、静かにさせます!!!」
「ミーナ、がんばってー」
メイド隊の悲鳴が、夜の寮舎に心地よく響いた。
◇ ◇ ◇
――こうして、《各国対抗・魔法競技大会》の夜はにぎやかに幕を閉じた。
次なる日常の波乱を、笑いとともに迎えながら――。




