表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/173

第百五十九話 祝賀会の陰で――

 ――アルヴエリア王立士官学園、大広間。


 「我らが妹にぃぃぃ――乾杯だぁぁぁぁぁ!!!」

 「ルヴァリア王国ばんざぁぁぁい!!!」


 ノアとレオンの雄叫びで、祝賀会は再び混沌へと突入していた。

 床は水浸し、花束は宙を舞い、メイド隊は悲鳴を上げる。


「ノア様っ! テーブルに乗らないでくださいっ!」

「レオン様、そのワイングラス何個目ですか!?」

「ええい! 今日は妹の晴れ舞台だ! 飲まずにどうする!!」

「そのセリフ、昼にも聞きました!!」


 ミーナを筆頭に、カティア、アシュリー、アネット、リリアが総動員。

 誰かがノアを引きずり下ろせば、レオンが逃げる。

 レオンを捕まえたと思えば、今度はノアが「妹の勝利記念パレード」を始める。


「兄さまたち……お願いですから落ち着いてください……!」

 アリアは額に手を当て、やれやれと肩をすくめる。

 けれどその目元は、やっぱり優しく笑っていた。


 ◇ ◇ ◇


「それにしても、アリア様……ほんと、立派でしたね」

 ミーナがそっとワイングラスにジュースを注ぎながら言う。

「去年の大会より、ずっと堂々としていらっしゃいました」


「ふふっ、ありがとうミーナ。でも……」

 アリアは笑いながらも、ちらりとノアとレオンを見る。

 兄たちはすでに椅子の上で「妹勝利の舞」を踊っていた。

「やっぱり、こうなるのよね……」


「これがレイフォード家の日常ですわね」

 カティアが苦笑し、リリアがため息をつく。

「……あの二人、整備班としてアルヴエリアで真面目に働いてるって聞いたのに」

「多分、“妹関係”になると理性が蒸発するんですのよ」


「蒸発って言うな!」

 ノアがなぜか聞きつけて抗議するが、すぐにまたレオンと乾杯を始めた。


 その様子に、アリアは堪えきれず吹き出す。

「もう……本当に、にぎやかなんだから」


 ◇ ◇ ◇


 夜も更け、会場がようやく落ち着き始めたころ。

 兄たちはメイド隊に両脇を抱えられ、廊下の隅で冷やされていた。


「……ノア様、少しは反省を」

「むぅ……反省の前に、妹の勝利をもう一回祝いたい」

「レオン様もです!」

「次は“妹の笑顔に乾杯”タイムをだな――」

「禁止ですっ!!!」


 ミーナが即座に封じた。

 その厳しい表情に、周囲のメイドたちは拍手を送る。


「やっぱり、ミーナが一番頼りになるわ」

 アリアがそっと笑って言うと、ミーナは顔を真っ赤にして頭を下げた。

「お嬢様にそう言っていただけるなんて……もう何でも頑張れますっ!」


「なら、兄さまたちを寝かしつける係、お願いね」

「えっ!? ね、寝かしつけ……!? あの暴走兄ィズを!?」

「お願い♡」

「う、うぅ……! 了解しましたっ!!」


 ◇ ◇ ◇


 祝賀会の夜、アルヴエリア学園の空には満月が輝いていた。

 アリアはその光を見上げながら、小さくつぶやく。


「……本当に、来てよかった」


 故郷ルヴァリアから遠く離れたこの地で、

 また新しい友達と出会い、挑戦して、そして――

 家族の愛をたっぷり受け止めた一日。


 明日もきっと、にぎやかで楽しい日になる。

 そう信じながら、アリアは静かに目を閉じた。


 その横で――。


「ノア兄さま、寝言で“妹ばんざい”って言ってます」

「レオン様は“整備班で祝賀花火を作る”とか言ってる……」

「だ、駄目ですっ!! 明日は絶対、静かにさせます!!!」

「ミーナ、がんばってー」


 メイド隊の悲鳴が、夜の寮舎に心地よく響いた。


 ◇ ◇ ◇


――こうして、《各国対抗・魔法競技大会》の夜はにぎやかに幕を閉じた。

 次なる日常の波乱を、笑いとともに迎えながら――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ