第百五十五話 アルヴエリア三日間――兄ィズ大暴走、宿舎は大混乱!?
アリア・レイフォードがアルヴエリア王国に降り立ってから、まだ間もない。
だが、代表宿舎――いや、もはや“兄ィズ管理下のレイフォード領外出張支部”と化した部屋は、早くも戦場のような騒ぎになっていた。
初日はアリアの到着とともに終了した――と思ったのは、あくまで外から見た話だ。
宿舎内ではノアとレオンが、いまだに“妹歓迎仕様”の宿舎整備に余念がなく、メイド隊五人――カティア、アシュリー、アネット、リリア、ミーナが必死に制御に走り回っていた。
「ノア様! 寝具の配置を変えたらアリア嬢が落ちます!」
「落ちるわけないだろう! 角度は完璧だ!」
レオンが支柱を手で押さえつつ叫ぶ。
だが、支柱の上から床までの距離は微妙にズレており、もしアリアがそこに座れば確実にバランスを崩す――。
「安全第一です、兄上!」
ミーナが魔導式補助装置を抱え、必死に飛び込んでくる。
しかしノアはまるで聞く耳を持たない。
「妹が心地よく過ごせる環境――それが我ら整備班の最優先任務だ!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 整備班の仕事は施設整備ですよ、妹の滞在準備ではありません!」
声を張ったのはカティアだ。
彼女の視線は、兄ィズ二人の行動を冷静に追う。
が――ノアもレオンもその視線を完全に無視していた。
翌日。
アリアは宿舎内で、自室の荷解きをしていた。
メイベルとクラリスが傍らで手伝うが、窓の外からは奇妙な音――ドタドタと工具の音や、壁を叩く音が聞こえる。
「……兄さまたち、また何をやらかしているのかしら」
アリアはため息をつく。
隣でクラリスが小声で答える。
「はい、あの方々の暴走はもはや宿命です、お嬢様……」
そしてその暴走の一端を、廊下を見回るメイド隊は察知していた。
「……また始まりましたね」
「ノア様の“角度完璧計画”……絶対、床が崩れます」
アネットが呟き、リリアとアシュリーも頷く。
ミーナは手に持った魔導式防御器具を握りしめ、全身に力を入れた。
宿舎中を駆け回るノアとレオン。
工具箱を抱えたまま、ベッドの高さ調整、魔導照明の角度微調整、さらには暖炉周りの安全策を施す。
その行動は完全に“アリア専用改造”であり、周囲の誰も止められない。
「レオン、照明の光量はアリアが目を細めないレベルに調整せよ!」
「了解、兄上! しかし、この光量調整には魔導石の過負荷リスクがあります!」
その声に、メイド隊は同時に悲鳴を上げた。
「また、過負荷ですか!?」
「止めてください、火災が起きます!」
「むしろ火災で良いのか? 妹の安全第一はどうなった!」
議論は平行線のまま、宿舎は異様な空気に包まれる。
三日目。
ついにアリアは、わずかな時間だけ廊下に出た。
外を見ると、宿舎の一角に、兄ィズ二人が巨大な“妹用魔導傘”の組み立てに奮闘していた。
「……あの傘、必要なのかしら?」
「必要です。雨天でもアリア嬢を濡らさぬためのものですから」
アネットが小声で説明する。
ミーナは目を丸くした。
「……もう、この人たち、手がつけられない」
その瞬間、レオンがバランスを崩し、工具箱を床に落とす。
音に驚いたノアは、慌てて支柱を押さえる。
「兄上、工具が! 危ないです!」
「落ち着け、レオン! 今、私が支える!」
それでも、支柱はわずかに揺れ、床板が軋む。
もしここにアリアが歩いていたら――確実に尻もちをつく距離だった。
その夜。
アリアは自室で手紙を書いた。
メイベルとクラリスが傍らで待機する。
「……兄さまたちの暴走、どうにかならないのかしら」
「はい、お嬢様。ですが、今回は初めてのアルヴエリアですから、制御は難しいです」
その言葉通り、廊下の向こうでは、ノアとレオンの笑い声と工具音が絶え間なく響く。
メイド隊五人は、魔導式防御や安全確保に全力を注ぎつつ、兄たちの暴走に振り回される日々を送っていた。
開会式まで、あと一日。
アリアは窓から遠くを見やる。
競技場の建物や整備区画が見える。
すでに各国の代表団も到着しており、緊張感は高まっていた。
だが――
宿舎では、ノアとレオンが“妹滞在最優先改修”を進め、
メイド隊五人が必死に抑え、
アリアがやや困惑しつつも微笑む、といういつもの光景が続いていた。
「……まったく、兄さまたちの熱意は止まらないわね」
アリアは静かに呟く。
だが、次の日から始まる競技大会で、この熱意がどう爆発するのか――
それはまだ、誰も知る由もなかった。
こうして、アルヴエリア滞在三日間は、
兄ィズによる“妹歓迎大騒動”とメイド隊の必死の制御に明け暮れ、
宿舎全体は静寂とは程遠い状態で日々を過ごすことになる。




