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第百三十四話 アリアの指示で神獣と兄ィズの制御訓練が本格化

 レイフォード邸の庭に、朝の柔らかな光が差し込む。夏の陽光が草の上できらきらと揺れる中、アリア・リュミエール・レイフォードは深呼吸を一つ。


「よし、今日も頑張るぞ……」


 肩の力を抜きながら、アリアは自身の魔力の流れを確かめる。以前より確実に強くなった魔力の余波が、手のひらから指先にかけて微かに震えている。

 しかし、その強さは喜ぶべきものではあったものの、従来通りの制御では思わぬ事故を招く恐れがあった。


 アリアが魔力制御の訓練を本格的に行う決意をしたのは、学園に戻ってからすぐのことだった。遺跡での事件、砦での一連の騒動――そして、何よりも自分の中で膨れ上がる力が、彼女にそれを自覚させたのである。


「セリーヌ師匠、お願いします……私に魔力の制御を教えてください。あと、兄達も……エルダリオンも一緒に……」


 師匠のセリーヌは、落ち着いた声で頷く。


「分かったわ、アリア。あなたの意思なら、私も協力しよう」


 それだけで、アリアの胸の中に小さな安心が芽生えた。



サイド訓練の開始


 庭の一角に設けられた訓練場には、特別に結界が張られていた。アリア、セリーヌ師匠、そしてエルダリオンの三者が配置され、訓練の準備は整った。


「我もか……?」


 エルダリオンは少し驚いた表情で立ち上がる。金色の鬣が朝の光を受けて輝き、翼を軽く広げる。


「そうよ、エルダリオン。今回はアリアの魔力とあなたの力を統制するための訓練よ」


 セリーヌ師匠は真剣な顔で告げる。エルダリオンは軽く鼻息を立て、嬉しそうに尻尾を振った。


「ふむ……楽しそうだな、我としても楽しんでやろう」


 しかしその瞳の奥には、守護者としての責任と、魔力の制御の重要性が光っていた。


 訓練は、まずアリアの魔力の流れを安定させる基礎訓練から始まる。手のひらを広げ、魔力を指先に集中させる。それをエルダリオンが横で受け止め、逆に魔力の流れを調整するという形式だ。


 セリーヌ師匠はアリアの背後で、微細な手の動きや魔力の震えをチェックする。


「アリア、指先の力を少し抜きすぎているわ。もう少し自分の中心に力を集めるの」


「は、はいっ!」


 アリアは真剣な表情で指先に意識を集中する。少しずつだが、魔力の流れが安定してきたことを実感した。


兄ィズの監視体制


 一方、ノアとレオンは隣の区域で訓練を開始したが、彼らの行動は母レイナの厳重な監視下にあった。


 母レイナは目を光らせ、直属のメイド部隊を配備している。彼女たちは、兄ィズの一挙手一投足を監視し、何か問題が起きれば直ちにレイナに報告。さらにレイナからの指示は即座に伝達され、実行される仕組みだ。


 兄ィズは普段からやんちゃで自由奔放、学園でも無軌道な行動を取ることが多い。しかし今回は、母レイナという“絶対権力”の前では手も足も出ない。


「む……これでは、自由に振る舞えないではないか」


 ノアはレオンに向かって、軽く文句を言った。


「まあ、我々も制御の訓練だと思えば……」


 レオンは苦笑しながらも、真剣に訓練に取り組む。母レイナの監視という重圧が、むしろ集中力を高める効果を生んでいるのかもしれない。


訓練の進行


 訓練は、アリアの魔力制御、兄達の行動制御、そしてエルダリオンの魔力安定を同時に行う「サイド訓練」として実施される。


 アリアは、魔力を集中させるために小さな光球を作り、指先で形を保つ。エルダリオンはその光球を受け止め、返すことで力の強弱や流れを感じ取り、安定させる。


 ノアとレオンも、アリアの魔力とエルダリオンの動きを見ながら、自身の行動を調整する。魔力の影響を受けて飛び跳ねたり、光球の流れを読んだりする。


 セリーヌ師匠は冷静に観察し、必要なアドバイスを的確に送る。


「エルダリオン、もう少し力を抜いて。光球の流れが乱れています」

「了解、師匠……ふむ、なるほど」


 エルダリオンは翼を一振りしてバランスを整える。その金色の鬣が風に揺れ、光を反射して周囲に小さな輝きを散らす。


 アリアは息を整え、集中力をさらに高める。徐々に、彼女の魔力とエルダリオンの力が一体となり、光球の流れは安定してきた。


アリアの心の声


 訓練の合間、アリアはふと考える。


『兄達やお父様の監視部隊より、母の直属メイド部隊の方が何かヤバそう、遥かに優秀……』


 その優秀さは、兄ィズたちに対する絶対的な抑止力として機能している。

 自由奔放な兄ィズも、母の視線があるだけで行動が制限される。


 アリアは心の中で小さく笑った。

 母の厳格さと、師匠の冷静さ、そして神獣エルダリオンの力――それらすべてが自分を守り、魔力制御の訓練を支えてくれる。


訓練の一幕


 ある瞬間、アリアの指先から生まれた光球が暴れ出す。

 勢い余って光球はエルダリオンにぶつかり、金色の鬣を輝かせて跳ね返る。


「ふむ、これは想定以上の力だな」


 エルダリオンは翼を広げ、光球を受け止める。さらに、彼の体から放たれる魔力で光球を安定させる。

 アリアは息を切らしながらも、光球の形を保つことに成功した。


 セリーヌ師匠は目を細め、満足そうに頷く。


「頑張って!、アリア。少しずつ、あなたの魔力は安定してきている」


 アリアは笑顔で答える。


「はい、師匠! もっと頑張ります!」


エルダリオンの様子


 エルダリオンは楽しそうに翼を羽ばたかせる。

 普段は守護者としての責任感が強く、真剣な顔をしていることが多い。しかし、訓練となると少しはしゃぐような表情を見せる。


「我も楽しい……が、任務の合間とはいえ油断はできぬな」


 その姿に、アリアも少し笑ってしまう。


『神獣も、訓練なら楽しめるんだ……』


 彼女は改めて、エルダリオンの存在が自身の成長を支えていることを実感した。


兄ィズの制御


 兄達は母レイナの監視下で、自由を奪われつつも訓練をこなす。

 ノアは光球の周囲で飛び跳ねながら、魔力の安定を図る。

 レオンは兄弟の動きを見ながら、自身の魔力を微調整する。


 母レイナの目は光のように鋭く、少しでも暴走の兆しがあれば即座に制止する。

 それでも、兄達は訓練中にふざけた行動を取ることがあるが、母の叱責にすぐに従う。


訓練の効果


 時間が経つにつれ、アリアの魔力の流れは安定し、光球の制御はほぼ完璧となった。

 エルダリオンも、アリアの魔力に応じて力を調整する術を理解し、二人の呼吸は次第に一体となる。


 兄ィズも、母の監視があることで必要以上の暴走を避け、訓練に集中できるようになった。


 セリーヌ師匠は静かに微笑む。


「これで、次に何が起きても少なくとも魔力の暴走は防げるはずよ」


 アリアは頷く。


「はい、師匠……ありがとうございます」

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