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第百三十二話 監察官本格査察!兄ィズ隠密潜入!?

 学園の朝は、昨日の混乱の余韻を残しつつも、いつもより緊張感に包まれていた。

 監察官ガストンの姿をちらつかせる教師たちの顔は、普段の何倍もこわばっている。


「……本日は学園の全てを観察する。教職員、生徒、そして校内設備――隅々までだ」


 監察官の冷たい声が校舎に響き、生徒たちは机に顔を伏せる。

 教師陣も必死に冷静を装うが、内心は戦々恐々だ。



 しかしその影で――。


「ふふふ、アリアを守るためなら、我らはどこへでも潜入可能だ」


 ノアとレオン、通称“守護兄ィズ”は、前日の騒ぎで学園の空気を熟知している。

 廊下の陰、樹木の裏、屋上の影――あらゆる場所に隠れて学園内に潜入した。


 ただし、今回はあくまでひそかに――派手に暴れるつもりはない。

 だが、ここで問題が一つ。


「……そうか、エルダリオンはどうする?」ノアが小声で訊く。

「いや、奴を放っておくわけにはいかぬ……」


 その瞬間、学園中庭の芝生に突如として光が集まり、魔法陣が輝いた。

 金色の鬣を揺らしながら、エルダリオンが現れた。


「我はアリアの守護神、エルダリオン!」


 翼を大きく広げ、風圧で芝生の草を薙ぎ倒す神獣。

 兄ィズは隠れながらも心の中で叫ぶ。


「……ちくしょう、派手すぎる!」



 中庭で豪快に回転し、空中を舞うエルダリオン。

 その度に窓ガラスが震え、教師たちは悲鳴を上げる。


「落ち着いてぇぇ! エルダリオン!」アリアの声も届かず、神獣は無邪気に芝生を駆け回る。


 隠れていた兄ィズも、ファンであるウォッチ隊に次々と発見されてしまう。


「うわっ、兄ィズ様だ!」

「これが守護兄ィズ……! 本物だ!」


 次々と観察眼を向けられ、兄ィズは身を伏せる。

 まさかのファンの出現に、静かに潜入するはずが完全に計画が崩壊。


 そして――監察官ガストンも気が付いた。


「……おや、あの影は……?」


 冷静沈着なガストンの目が、隠れた兄ィズを捉えた瞬間、教師たちは凍りつく。



 アリアは心を決め、手を掲げる。

「エルダリオン、ハウス!」


 光の渦が神獣を包み込み、ぐるぐると回転させる。

 金色の鬣が光を反射し、空間がねじれるように見える。


「うおおおお……!」兄ィズは心の中で歓喜する。

 神獣エルダリオンは光の中で溶けるように消え、元の学園にはいなくなった。


 しかし、兄ィズはまだそこに残っている。

 心の底から、やっと自由になった気分だ。


「よし……これで、もう思い切り……!」


 その瞬間、学園の正門が勢いよく開いた。



 「……ふふふ、また学園で暴れたのね」


 現れたのは、レイフォード家の母、レイナ。

 冷たい眼光が、兄ィズの背筋に走る。


「母上……!」ノアとレオンは咄嗟に言い訳を試みる。

「監察官が! 学園が危険で!」


 しかしレイナは片手に扇を持ち、ゆっくりと回しながら近づく。

 その一振りだけで、兄ィズは息をのむ。


「……これ以上、好き勝手は許さないわよ。屋敷に戻る前に、調教が必要ね」


 言葉の端々に鋭さが宿り、兄ィズはすっかり降参。


「わ、わかりました母上……!」


 レイナは軽く手を振ると、兄ィズを強制連行。

 隠れ潜入のつもりが、結局母の一声で完全に捕まってしまったのである。




 学園に残された教師陣と生徒たちは、再び息をつく。

 監察官ガストンは静かに手帳を閉じ、満足げに微笑む。


「……本日の観察は終了だ。学園はこのまま平穏を保つことを期待する」


 教師たちはほっと胸をなでおろすも、内心ではこう思っていた。

「……兄ィズはいつ、どこからまた学園に戻るのだろうか……」


 エルダリオンはいなくなったが、兄ィズの存在はまだ完全には排除されていない。

 アリアは窓の外を見上げ、深く息をつく。


「……まったく、学園に平穏が訪れる日は、いつになるのかしら……」


 その背後で、父アレクシス伯爵が書類を抱えて廊下を走る音が聞こえる。

 母レイナの指導で兄ィズが引き連れられ、学園の騒動は一時的に収まったものの――平穏は長く続かない予感が漂う。


 次に学園に現れるのは――兄ィズ、エルダリオン、そして監察官ガストン、三者の新たな騒動である。

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