第百二十八話 王城にて――偉そうな人と少し偉そうな人
ここは王都の中心にそびえる壮麗な王城。
その奥深く、ひときわ豪奢な執務室にて、王国最高権力者――すなわち「偉そうな人(王様)」が椅子にふんぞり返っていた。
「……またか」
王様は、机の上に積み上げられた報告書の山を見て、深々とため息をついた。
「またでございます」
隣に控えるのは「少し偉そうな人(宰相)」。
王様ほどふんぞり返ってはいないが、それなりに偉そうな雰囲気を出しつつ、冷静に紙をめくっていた。
「学園で監査官が……?」
「はい。監査官殿が“兄ィズおよび神獣エルダリオンの大暴走”と書き残し、半泣きで帰還された模様にございます」
「…………」
王様はこめかみを押さえた。
◆報告書の中身
「しかもです」宰相が続ける。
「監査官殿の報告書には“本学園最大の問題は対象生徒本人ではなく、その周囲である”と明記されておりまして」
「その周囲、か」
「はい。具体的には、“二人の兄と神獣一体”」
「もはや学園というより動物園ではないか」
「まさに」宰相もうなずく。
「しかも神獣が出てきた件、これはもはや教育省の管轄を超えております」
「……いや、どうして神獣が学園にいるのだ」
「誰もわかりません。気がつけばいたそうで」
「ペット感覚か」
「どうやらそうらしいのです」
◆王様の頭痛
王様は机をばんっと叩いた。
「アリア嬢であったな! あの子の周囲はなぜこうも騒がしいのだ!」
「さすがにわたくしにも説明はつきません」宰相は肩をすくめる。
「ただ……伯爵家のお嬢様であることは確かですので」
「ふむ」
「国として放置するわけにもいきませぬ。何より――神獣の存在は諸国に知られると厄介にございます」
「確かに……外交問題になるな」
◆対策会議(という名の愚痴)
「では、どうするのだ宰相」
「まずは監査官殿をなだめ、学園の混乱を収束させること」
「それで収まるのか?」
「……収まりませぬな」
二人の間に重苦しい沈黙。
「次に、アリア嬢とその兄二人……そして神獣を、どう扱うか」
「どう扱うか、と言われてもなぁ……」
「王都防衛戦力として計上するのはいかがでしょう」
「学園の生徒と神獣を戦力に数える王国など聞いたことがないぞ」
「前例がないことをするのが王政というものにございます」
「言うに事欠いて……!」
◆結論?
「ともあれ、いずれにせよ一度は呼び出し、直接話を聞かねばならぬでしょう」宰相が締めるように言った。
「呼び出す……あの兄二人もか」
「はい。むしろ兄二人を除外すれば、確実に押しかけてきますので」
「……確かに」
王様は両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
「頭が痛い……」
「陛下、ご安心を」宰相が涼しい顔で言った。
「痛いのは頭だけで済めば幸いにございます」
「……………………」
――この後、王城に「アリア一行召喚」の正式命令が下ることになるのだが、誰もまだその惨状を知らなかった。




