第百二十七話 監査官襲来!学園で兄ィズ&エルダリオン大暴れ!
その日――学園に異様な緊張感が走っていた。
青空の下、校門前には馬車の列。王都から派遣された「王国教育監査局」の使者たちが、ついに視察にやって来たのである。
「皆の者、気を引き締めるのだ!」
学監リヒトは額に汗をにじませながら、生徒と教師を一列に整列させた。
「いいか! 本日は絶対に! 騒ぎを! 起こすでないぞ!」
「「「は、はぁい……」」」
その場にいた教師も生徒も、心のどこかで同じことを思っていた。
――一番心配なのは、あの兄妹とその取り巻きなのだと。
◆監査官の登場
馬車から降り立ったのは、黒衣をまとった厳格そうな男だった。
切れ長の目、無駄のない所作、そして手にした帳簿。見るからに「融通の利かない監査官」である。
「我が名はアーレント。王国教育監査局より参上した。本日は学園の規律・教育体制を厳正に査察する」
「ひ、ひぇ……」
教師たちは一斉に青ざめた。
「特に噂に上る“問題児”に関しては、厳しく調査させてもらう」
その一言に――誰もが、条件反射でアリアの方を見てしまった。
「え? あ、あたしですか!?」
当の本人は、首をかしげてきょとんとしている。
その背後から、キラキラとまぶしい笑顔で飛び出してくる二人の影。
「アリアは問題児ではない! 天使だ!」ノア。
「アリアを疑うなど! その帳簿ごと斬り捨てるぞ!」レオン。
「兄ィズ……!!」
教師陣の悲鳴が上がった。
◆護衛モード兄ィズ
「おいおい、護衛に名を借りた過干渉はやめてください!」
規律担当マルティナが叫ぶ。
「黙れ! アリアを守るのが我ら兄ィズの使命!」
「守護者に監査など不要!」
ノアとレオンは勝手に決めポーズを取り、芝の上に立つ。
その様子に、監査官アーレントは冷たい視線を投げかけた。
「なるほど……これが噂の“兄ィズ問題”か」
「も、問題って言われちゃいましたよお兄様!」アリア。
「問題ではない! これは愛!」ノア。
「いや愛でも駄目ですから!」教師陣総ツッコミ。
◆そして現れる神獣
その時だった。
突如、校庭の上空に巨大な魔法陣が輝き――光の中から一体の神獣が姿を現した。
「アリアの守護神は、我にあるぞ!」
翼を広げ、黄金の瞳を輝かせる――神獣エルダリオンである。
生徒たちは口をぽかんと開け、教師たちは全員腰を抜かした。
「な、なぜ神獣が学園に……!」
「記録に残したら教育省から即刻解体命令が……!」
「書類に書けるわけないでしょうこんなもん!」
混乱する人間たちをよそに、エルダリオンは悠然と地に降り立った。
◆三つ巴の口論
「アリアは我が主。我が牙も翼も彼女を守るためにある!」
「ふん! 守るのは我ら兄ィズだ!」ノア。
「そうだ! キメラから守ったのも我らだ!」レオン。
「いやいや、我は見ていたぞ。あの時アリアを救ったのは……そこの女ではないか?」
エルダリオンの視線はセリーヌへ向けられた。
「ちょ、ちょっと待って! なんで私に振るのよ!?」セリーヌ。
「師匠いたんですか!って、師匠まで巻き込むんじゃありません!」アリア。
「いいや! アリアは全であり一である! 我らの存在理由だ!」
「うむ、我もまたアリアに仕えるため生まれた存在!」
――兄ィズ vs 神獣。
学園史上初の、不毛極まりない口論が繰り広げられた。
◆監査官の試練
「…………」
監査官アーレントは無言で帳簿に何かを書き込んでいた。
「な、なにを……」学監リヒトが恐る恐る尋ねる。
「“本学園における最大の問題は、生徒個人ではなく、その周囲である”」
「ぐはぁっ!」教師一同が地面に突っ伏した。
「特に兄二人と神獣一体は、学園における最大の治安リスクと認定する」
「治安リスクって言われちゃいましたよ!」アリア。
◆大暴れの幕開け
だが事態はここで終わらなかった。
監査官が「規律違反の即時退学処分」などと言い出した瞬間――
「退学だと!? アリアを追い出す気か!」ノア。
「許さん! その帳簿を灰にしてくれる!」レオン。
「我が主に刃向かう者、我が咆哮で吹き飛ばす!」エルダリオン。
どごぉぉぉん!!
校庭が揺れ、砂煙が舞い上がった。
教師陣の悲鳴、生徒のパニック、監査官の絶叫。
「やめてぇぇぇぇぇぇ!!!」
アリアの叫びが、学園中に響き渡った。
――その日、学園は再び壊滅寸前の大混乱に陥った。
後に「監査官襲来事件」として記録されるこの出来事は、教師たちの白髪を一気に増やしたという。




