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第百二十六話 教師陣、会議室にて頭を抱える

 昼下がりの学園職員室――その奥にある会議室では、今日もまた重苦しい空気が漂っていた。

 長机の上には書類が山積み、窓の外から差し込む陽光は明るいはずなのに、集まった教師陣の表情はまるで雨雲に覆われたかのように沈鬱そのものだ。

 

「……では、本日の議題は例によって例の件――“アリア嬢とその兄上方による学園混乱問題”でよろしいですかな?」

 白髪混じりの学監リヒトが咳払いをして口火を切る。


「ふう……またですか。毎度毎度、同じ話題で時間が消えていく……」

 歴史学担当の老教授グレンは、深々と椅子に沈み込み、机に額を押し付ける。


「しかし放置しておくわけにも参りませんでしょう。あの兄妹が一度登校すれば、必ずと言っていいほど騒ぎが起きるのですから」

 規律担当の女性教師マルティナが、眉間に深いしわを刻みながら答えた。


「今日もまた、大広間でファンクラブとウォッチ隊が入り乱れての大騒ぎだったとか」

「ええ、目撃者の証言によれば、兄上の一人ノア殿が『アリアは全であり一である!』と高らかに宣言し、もう一人のレオン殿は『ならば我らはその守護者だ!』と追随したそうで……」

「その時点で授業は完全に中断。教師たちも制止できず、生徒全員が観客になってしまった」


 会議室の空気が一層どんよりと重くなる。


◆教師陣の苦悩


「学園は学問と修練の場であるはずだ。それなのに、まるで舞台か見世物小屋ではないか」

「おまけに……先日の遺跡騒動だ。半壊した砦、行方不明とされた教師や生徒、戻ってきたと思えばアリア嬢はケロリと笑って登校……。いや、確かに彼女は悪くないのかもしれんが、周囲が勝手に振り回されるのだ」

「そして――その周囲の筆頭が兄上方だ」


「……兄ィズ」

 誰かが小声でつぶやくと、全員が重々しくうなずいた。


◆想定される騒ぎリスト


「では、今後想定される騒動について整理いたしましょう」

 学監リヒトが魔導ペンを取り、黒板に板書を始めた。


兄ィズによる過剰護衛行動

 →授業中も付き添い、試験でも解答を手伝おうとする。

 →他の男子生徒がアリアに近づくだけで決闘を申し込む。


ファンクラブ騒動

 →女子生徒たちが兄ィズを讃える歌を作り、授業中に合唱。

 →逆に男子生徒が「アリア応援隊」を作り、衝突必至。


神獣乱入事件

 →最近出現した“エルダリオン”なる存在が学園に顔を出す可能性。

 →教師の誰も制御できないため、学園規模の大混乱が予想される。


アリア本人の“うっかり”

 →魔力制御訓練の最中に校庭を半壊させる。

 →無自覚に神獣を召喚してしまう。

 →友人を助けようとして、逆に事件を拡大させる。


「……以上。これでもまだ氷山の一角でしょうな」

「もう学園が何度か壊滅していてもおかしくない規模ですな」

「むしろ、よく今まで形を保っているものだ」


◆対策案


「で、対策は?」

「ええと……まず兄上方に“校則遵守”の誓約書を書かせてはどうかと」

「無駄でしょう。署名と同時に“アリアのためならば校則すら超える”とか言い出すに決まっている」


「では監視役を付けるのは?」

「誰が務めると? 並の教師では彼らに押し切られる」


「ならば……アリア嬢本人に自覚を持ってもらうしか」

「無理です! 彼女は善良すぎる。善意から動いて騒ぎになるのです!」

「しかも悪びれない笑顔がまた……教師たちの叱責を無力化してしまう」


「……結論。対策不能」

 黒板にそう大書されると、会議室の全員が机に突っ伏した。


◆今後の懸念


「ところで――近々、王都から監査官が来るという話をご存じか?」

 誰かが重い口調で言った瞬間、室内の空気が凍りついた。


「学園の規律や運営を視察するそうです」

「その時にアリア嬢と兄ィズが暴れでもしたら……」

「学園の存続問題になりかねん!」


「どうすればいい……どうすれば……」

 教師陣は頭を抱え、沈黙する。


窓の外では、今日も中庭でアリアと兄ィズが仲良くはしゃいでいる声が響いていた。


「アリアーッ! 危ないからその階段は俺の肩を踏んで登るのだ!」

「いやいや! ここは俺の背中を使え!」

「ちょっと、そんなことしなくても登れますー!」


 ……会議室の全員が、同時に深いため息をついた。

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