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第百二十五話 学園へ、そして再びの大騒ぎ

 午後の日差しが穏やかに庭を照らす中、アリアは芝の上に座り込んでいた。汗ばんだ額をぬぐい、深呼吸を一つ。目の前ではセリーヌが涼しげな顔で腕を組み、アリアの魔力の流れを見定めている。


「……ふぅ……だいぶ、感覚が掴めてきた……気がします……」


 アリアは胸に手を当て、小さく息を吐いた。確かに以前よりは魔力が暴走せず、内に収められるようになってきている。だが同時に、胸の奥に何か引っかかる感覚が残っていた。


(……なんだろう……忘れてるような……大事なこと……)


 必死に考え込んだ末、はっと顔を上げた。


「――師匠!! あたし……学園に行ってないっ!!」


 唐突な叫びに、セリーヌがまばたきを二度三度。


「……え?」


「遺跡に行って、キメラに襲われて……お兄様たちが来て、砦で……で、家に戻って……修行始めて……」

アリアは指折り数えながらぶんぶん頭を振った。

「学園に行ってません! 全然!!」


 その必死さに、セリーヌはふっと吹き出した。


「ああ……そうよね。あなた、まだ……学園生だったわねぇ」


「『まだ?』って何ですかっ! 生徒です! しっかり在籍してます!!」


 両手を振り回して抗議するアリアを、セリーヌは面白そうに見つめた。

「ま、いいじゃない。学園の方も、きっとあなたのことを心配してるでしょうし。……そろそろ顔を出した方がいいわね」『あたしも暇が出来たら学園、行ってみようかしら』


「はいっ……!」

アリアは立ち上がり、決意を固めるように拳を握った。


 翌朝。


 久方ぶりの学園の門は、変わらず青々とした蔦に覆われていた。アリアは胸の鼓動を落ち着けながら正門をくぐる。登校してきた生徒たちが一瞬、目を丸くした。


「あっ……アリア!」

「無事だったんだね!?」

「遺跡の騒ぎの後から姿が見えなくて……!」


 友達のミーナやリリアーナが駆け寄ってきた。心配そうに手を握ってくる姿に、アリアは思わず胸が熱くなる。

「ごめんなさい、心配かけちゃったわ。でも、ほら……この通り元気よ!」


「よかったぁ……!」

「ほんと、無事で安心した……」


 再会の喜びに包まれる教室。だが、その温かい空気は長くは続かなかった。


 ――教室の隅から、妙なざわめきが広がっていく。


「おい、アリア嬢が登校してきたぞ!」

「ふむ……今日の髪の光沢は一段と増しているな!」

「笑顔が尊い……!」


 そう、アリアを遠巻きに観察する「ウォッチ隊」が、またぞろ活動を再開したのだ。


「ちょっ……あなた達、懲りないわね!」

アリアは額を押さえたが、もう遅い。机の影や窓際、カーテンの裏などから生徒たちがぞろぞろ湧いて出る。


「アリア嬢の無事を確認! 全員、敬礼!」

「ははーっ!」


 クラス全体が妙な軍隊のような雰囲気に包まれる。友達たちは呆れ顔でため息をつき、アリアは半泣きで机に突っ伏した。


 そこへさらに、最悪の追撃がやってくる。


「ふはははっ! やはり学園は狭苦しいな!」

「だが、アリアを見守るには最高の舞台ではないか!」


 教室の扉が勢いよく開き、ノアとレオン――兄ィズが颯爽と登場した。


「……なっ!?」

「な、なんでお兄様たちがここに!?」


 セリーヌの修行を抜け出してきたらしい。白昼堂々、学園の教室に現れる二人に、生徒たちがどよめいた。


「見よ! これがアリアの兄ィズだ!」

「かっこいい……!」

「いやいや、目立ちすぎでしょ!」


 ウォッチ隊の一部が早くも「兄ィズ観察班」に鞍替えし始める。


「やめてくださいぃぃぃぃっ!!」

アリアは机を叩いて立ち上がった。


「お兄様たち、何やってるんですか!? 修行はどうしたんですか!?」

「む……! だがアリア、我らはいついかなる時もお前を見守るのが務めだ!」ノアが胸を張る。

「そうだ! 学園に潜む影からアリアを守るのも、我らの修行の一環なのだ!」レオンも負けじと頷いた。


「そんな修行あるわけないでしょうがぁぁぁ!!」


 クラスは爆笑と悲鳴とどよめきに包まれる。


 その日、アリアの久々の登校は――

「友達との再会」+「ウォッチ隊復活」+「兄ィズ乱入」という、三重苦の大騒ぎで幕を開けたのであった。


(あたしの平穏な学園生活……どこ行っちゃったのよぉぉぉっ!!)


 アリアの心の叫びは、教室の喧騒にかき消されていった。


―――――

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