第百二十四話 「守護者、名乗りを上げる」
芝の上でノアとレオンが肩を並べ、太陽を背に堂々とポーズを決める。
「さあ、アリア! 俺たちと共に修行を再開しようではないか!」ノアが叫ぶ。
「お前が全であり一であるならば! 俺たちはその守護者として戦うのだ!」レオンが続ける。
きらりと白い歯を光らせ、二人は勝手に眩しい笑顔を放った。
「守護者……?」
アリアが小首を傾げた、その瞬間だった。
地面に円形の紋様が浮かび上がり、白銀の輝きが庭全体を包み込む。風が逆巻き、空気が震え、重々しい声が響き渡った。
「――アリアの守護神は、我にある!」
光が収まると同時に、そこには巨大な獅子のような姿が現れていた。背に翼を広げ、蒼い鬣をたなびかせる神獣――エルダリオンである。
「なっ……!?」アリアは思わず後ずさった。
「し、神獣……!」セリーヌも目を見開く。
エルダリオンは堂々と胸を張り、天を仰いで咆哮した。
「アリアよ、そなたを守るのはこの我! 天命に刻まれし理は揺るがぬ!」
その瞬間、兄ィズががばっと前に出た。
「ふざけるな! アリアを守るのは俺たち兄ィズだ!」ノアが叫ぶ。
「そうだ! そもそも守護者を名乗るなら、なぜキメラからアリアを守らなかったのだ!」レオンが鋭く詰め寄る。
エルダリオンは一瞬たじろぎ、わずかに視線をそらした。
「……そ、それは……だな……」
ノアがさらに追撃する。
「そうだろう! アリアをキメラから救ったのは、この俺たちだ!」
「いや、正しくは――我ら兄ィズだ!」レオンも胸を張る。
「むぅぅ……」エルダリオンは唸り声をあげ、やがて観念したように口を開いた。
「……いやいや、我も見ていたぞ。だがアリアを守ったのは――そこの女ではないか!」
蒼い瞳がセリーヌを指し示す。
「へっ!?」セリーヌは思わず後ずさり、アリアに助けを求めるように振り返った。
「ちょっ……ちょっと待ちなさい! どうして私に振るのよ!」
ノアとレオンは同時に声を荒げる。
「な、なにぃ!? アリアを守ったのは俺たちだ!」
「いや、俺たち以外ありえん!」
「いやいや、現にアリアを砦まで運んだのはこの女であろうが!」エルダリオンが堂々と主張する。
セリーヌは顔を真っ赤にし、腕をぶんぶん振った。
「そ、それは……! あの時は必要だったから運んだだけで! 守護者とか、そういう大それたものじゃ……!」
「いや、十分守護しているではないか!」エルダリオンが吠える。
「むぅぅ……! ならば!」ノアが負けじと吠える。
「守護者は三人もいらぬ! いや、四人か!? 我々兄ィズと神獣と……この女!?」レオンが混乱気味に指折り数える。
「ちょ、ちょっとぉ! 誰が“この女”よ!」セリーヌがツッコミを入れる。
アリアはこめかみを押さえ、必死に笑いを堪えていた。
「は、はははっ……! なにこれ、守護者論争……? なんで神獣まで巻き込んで言い争ってるのよぉ……!」
エルダリオンは胸を張って宣言する。
「いずれにせよ、アリアを守るのはこの我! 兄ィズとやら、お前たちの存在は余計だ!」
「何をぉぉ!?」ノアとレオンの声が庭に響き渡る。
その瞬間、伯爵邸の窓から顔を出した母レイナが一言。
「……ちょっと静かにしてくれないかしら? お昼寝の邪魔よ」
全員、固まった。
こうして「誰がアリアの守護者なのか」を巡る不毛な争いは、母の一喝によって強制終了を迎えるのだった――。




