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第百二十三話 兄ィズ、帰還! 文明人(?)になっての大逆襲!?

 伯爵邸の中庭。

 真昼の太陽が、芝に鮮やかな光を落としていた。


 アリアは額に汗をにじませながら、セリーヌ師匠の指導で魔力の制御訓練に励んでいた。

 両手の間に浮かぶ光の球は、以前よりもずっと安定している。


「……ふぅ。やっと……少しずつ出来るようになってきた……」


 アリアが息を吐いたそのとき――。


 ――カツ、カツ、カツ。


 中庭に面した回廊から、二つの影がゆっくりと現れた。

 背筋はぴんと伸び、髪は艶やかに整えられ、衣服もきちんとしたものに替えられている。

 堂々とした足取りは、まるで騎士の行進のようだった。


「……お、お兄様たち……!?」


 アリアは思わず目を丸くした。


 そこにいたのは、ノアとレオン――彼女の兄ィズである。

 だが、その姿は以前の「泥まみれ・煤まみれ・野性味全開」の二人とはまるで別人。


 屋敷の侍女たちがひそひそと囁く声が、風に乗って聞こえてくる。


「まあ、ノア様とレオン様?いつお戻りになられたのかしら?」

「奥様が何か小汚い人たちを連れて行かせたらしいけど……」

「え、もしかして、その時のお二人が……」

「何か見違えて素敵になられていません事…」


 アリアは心の中で叫んだ。


(そーいえば、お兄様たち……学園時代にファンクラブみたいなのが出来るくらい、かっこよかったんだっけ……!)


 目の前に立つ兄二人は、確かにかつての栄光を取り戻したように見える。

 アリアは思わず口を押えてつぶやいた。


「み、見違えた……ほんとに……」




 横で訓練を見ていたセリーヌが、ぱちんと扇子を閉じる音を響かせた。


「あら、あなたたち。そんなに文明人してたのね」


 さらりと放たれた一言に、ノアとレオンの肩がぴくりと跳ねる。


「せ、セリーヌ殿……それは褒め言葉と受け取ってよろしいのか?」ノア。

「”してた”って過去形はどういうことだ!?」レオン。


 だがセリーヌはただ、にっこりと微笑むばかりだった。

 まるで「長続きはしない」と見抜いているかのように。




 アリアは両手を胸に当てて、興味津々と尋ねた。


「ところで……お兄様たちは、どんな修行をしていたのですか?」


 すると兄ィズは胸を張り、声をそろえて叫んだ。


「『一は全、全は一!』――その答えを見つけさせられていたのだ!」


「…………え?」


 アリアは一瞬きょとんとしたが――。

 次の瞬間、腹を抱えて吹き出した。


「ぶふっ! ま、待って待って! それって――錬成しちゃうやつじゃないですか!? ええぇぇっ!?」


 彼女の脳裏に浮かんだのは、前世で大好きだった漫画とアニメ。

 等価交換で物を作る、あの作品の名台詞である。


「だとしたら……弟のレオン兄さまは……」


 アリアは想像し、顔を青ざめさせた。


「空っぽの鎧になっちゃったり……! あ、いやいや、ないないないない! ははははは!」


 中庭にアリアの笑い声が響く。




 必死で笑いをこらえながらも、アリアは尋ねた。


「で、で……兄さまたちは、その答えは出たのですか?」


 ノアとレオンは顔を見合わせ、にやりと笑う。


「ああ、出た!」

「”アリアが全! アリアこそ一!”」


 ばーんと胸を張り、指を妹に向ける二人。


「「我らがすべての答えはアリアだッ!!」」


 中庭の侍女たちがキャーと悲鳴を上げる。

 だが、当のアリア本人は顔を真っ赤にして叫んだ。


「ちょ、ちょっとぉおおおお!! 何言ってるんですかぁあああああ!!」




 その様子を黙って見ていたセリーヌが、ふうと長い息を吐いた。


「……師匠、こんなんでいいのですかぁ?」アリア。


 セリーヌは天を仰ぎ、うっすら涙ぐんで呟いた。


「良くないけど……これ以上、良くならないのよ……」


 その場に、妙な静寂が訪れる。


 しかし、兄ィズはまったく気にしていない。


「さあ、アリア! 俺たちと共に修行を再開しようではないか!」ノア。

「お前が全であり一であるならば! 俺たちはその守護者として戦うのだ!」レオン。


 芝の上で二人は勝手に決めポーズを取り、輝く笑顔を放っていた。




 こうして再び始まった、兄ィズとアリアの修行の日々。

 その賑やかさは、伯爵邸の中庭だけでなく、屋敷全体を揺るがすほどだった。


 ――果たしてアリアは、まともに魔力制御を学べるのだろうか。

 そして兄ィズは、文明人の姿をいつまで保てるのだろうか。


 すべては、次回のお楽しみである。

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