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第百十七話 一難去ってまた一難……。

アリアは呆然としながらも、なんとか声を振り絞った。


「わ、わたしは……アリア・レイフォードです……。あの……助けていただいて……ありがとうございます」


 膝が震え、今にも崩れ落ちそうな状態で深く頭を下げる。その姿は気丈に見えても、内心は恐怖と安堵でいっぱいだった。


「レイフォード、ねぇ……。なるほど、そういうこと」

 セリーヌはニヤリと笑い、今度はノアとレオンに目を向ける。

「じゃあ、あんたたち二人は――」


「兄だ!」ノアが胸を張る。

「俺も兄だ!」レオンも負けじと声を張る。


「……二人とも兄なのね。ややこしいわねぇ」セリーヌは肩をすくめた。


「ややこしくない! 兄ィズだ!」

「そう、兄ィズなんだ!」


 声をそろえて叫ぶノアとレオン。あまりの勢いにアリアは思わず笑みをこぼし、緊張が少しだけ和らいだ。


「なるほど、兄ィズね……。ふふっ、まったく変な家族」

 セリーヌは小さく笑い、魔力を収めながらロック鳥の背を軽く叩いた。巨大な鳥は「グルルゥ」と鳴き、すでに次の行動を待っているようだ。


「さて……キメラはしばらく封じておいたけど、いつまた復活するかわからない。ここで立ち話をしてる場合じゃないわね」


「じゃあ、どうするんだ?」レオンが問う。


「決まってるでしょ。安全な場所まで退くのよ」


「だが……アリアを置いては行けない!」ノアが言う。


「アリアは置いていかないわよ!」セリーヌは呆れたようにツッコむ。

「むしろ、あんたたちのせいで事態がややこしくなってる気がするんだけど?」


「なにぃ!? 俺たちが原因だと!?」

「俺たちは常に妹のために全力であるのに!!」


 ノアとレオンが抗議するが、セリーヌは完全にスルー。

「さ、さっさと行くわよ!」


 アリアは兄たちに支えられながら、ふらつく足取りで立ち上がった。胸の奥で、まだ恐怖が渦巻いている。けれども、兄たちと、そして新たに現れた頼れる(?)セリーヌがいる――その事実が、心を支えていた。


「……はい」アリアは小さく答えた。


 そして一行は、封じられたキメラが蠢く遺跡を背に、ロック鳥へと歩み寄るのだった。


――その背中に、なおも不穏な気配がまとわりついていることを、まだ知らずに。


―――――


 ロック鳥の巨大な翼が風を切り、砂埃を巻き上げる。

 ノアとレオンは、ぐったりしたアリアを抱えるようにして背に乗り込むと、慌ただしく手綱を握るセリーヌへ声をかけた。


「頼むセリーヌ師匠! 王都まで全速力で!」ノア。

「アリアを休ませる場所が必要だ!」レオン。


「はいはい、わかったわよ。まったく、いつも急がせるんだから」

 セリーヌは肩をすくめながらも、ロック鳥の首筋を軽く叩いた。


 ――バサァッ!!

 凄まじい風圧とともに、巨体は宙へと舞い上がる。


 眼下に小さくなる遺跡、そこにうごめく黒い瘴気。セリーヌはちらりと振り返り、唇をかみしめる。

(封印は持ちこたえるはずだけど……あれは完全に眠りについたわけじゃない。早めに報告しておかないと、厄介なことになるわね)


 彼女が険しい表情を浮かべる横で――。


「うおぉぉ! やっぱり何度乗っても慣れん! 胃が浮くぅぅ!」ノア。

「おいノア! アリアを落とすな! しっかり抱えていろ!」レオン。

「わかってる! でも手が震えるんだぁぁ!」


 アリアは兄たちの大騒ぎを耳にしながら、かすかに笑みを浮かべた。

「ふふ……兄さまたち、いつも通り……」

 その声は風に溶け、ほとんど聞こえなかった。



 空の旅は順調――かと思いきや、途中で不穏な影がロック鳥の後を追い始めた。

 群れを成す黒い鳥の魔獣だ。


「な、なんだ!? 追っ手か!?」ノア。

「どうする、戦うか!?」レオン。

「バカ! こんな高さで暴れたらアリアが危ないでしょ!」セリーヌが一喝する。


 しかし黒い鳥たちは明らかに狙いを定めて近づいてくる。

 セリーヌは一瞬だけ考え、きっぱりと言った。

「ノア、レオン。――魔法の修行、サボらずやってたでしょうね?」


「えっ……」

「いや、その……」


 兄ィズは目を逸らす。


「ちょっと! 今こそ出番でしょうが! 『アリアのピンチがわかる!』なんて威勢のいいこと言ってたくせに!」


「うぐっ……!」

「くっ……!」


 しかし彼らも腹をくくった。

「よし、アリアのためだ! やるぞノア!」

「ああ、やってやるさ!」


 二人が立ち上がり、背後に迫る鳥の群れへ向けて魔力を放とうとしたその時――。


「――って待て! ここ高度数百メートルだぞ!? 飛んで戻ってきたらどうするんだ!?」ノア。

「それを言うな! もう撃つしかないだろう!」レオン。


「「うおおおぉぉぉ!!」」

 二人は渾身の火球をぶっ放した。


 轟音と閃光、そして黒い鳥たちは一斉に悲鳴を上げて散り散りに飛び去っていく。


「や、やったぞ! 俺たちの勝利だ!」ノア。

「アリア! 見てたか!? お前の兄たちは強いだろう!」レオン。


 アリアは半分眠りかけながら、小さな声で呟いた。

「……はいはい、すごいです……兄さまたち」


 アリアはまぶたを重たげに閉じかけながら、かすかな笑みを浮かべた。

 その声は風に流されてしまい、兄たちには届かなかった。


「なあ、今アリアが何か言ったか?」ノアが耳をそばだてる。

「言った! 俺たちを褒めてたんだ! 間違いない!」レオンが即答する。

「本当か? 俺には“すごい”の一言しか聞こえなかったぞ!」

「それが褒め言葉なんだよ! お前は妹の言葉を疑うのか!?」

「む……ぐぬぬ……」


 二人の言い合いをセリーヌが後ろからバッサリ斬り捨てた。

「はいはい、口喧嘩は後にしなさい! まだ群れが完全に去ったわけじゃないんだから!」


 その言葉通り、遠くの雲の切れ間に黒い影がちらついた。

 散り散りに逃げたかに見えた鳥型魔獣の一部が、なおもしつこく尾を引いている。


「……やっぱりね」セリーヌは眉をひそめる。

(ただの魔獣じゃない。何かに導かれてる……まるで“獲物”を追跡しているみたいに)


 彼女の視線が、無意識にアリアへと向かう。

 その瞬間――アリアは不意に胸の奥がちくりと痛んだ。


「……っ」


「アリア!? どうした!」ノアが慌てて抱きしめる。

「無理するな、もう休め!」レオンも背中を支える。


 兄ィズの慌てぶりに、アリアは苦笑を浮かべつつも小さく首を振った。

「……だいじょうぶ、です。ただ……少し胸が……熱くて……」


 その言葉に、セリーヌの目が鋭く光った。

(まさか……封印された“キメラ”の瘴気と共鳴してる? いや、それだけじゃない。アリア自身の“血”か“力”が、奴らを呼び寄せている……?)


 彼女は舌打ちをして、決断する。

「よし、予定変更! このまま王都に直行は危険。途中の砦で一度降りて、結界で身を守るわよ!」


「砦だと? そんなの寄り道じゃないか!」ノアが叫ぶ。

「アリアの安全第一だ! 賛成!」レオンが即答する。


「よろしい。じゃあ全速力で飛ぶわよ! ロック鳥!」


 ――バサァァッ!!

 巨大な翼がさらに速度を上げ、雲を突き抜けて進む。


 その影を、なおもしつこく追う漆黒の群れ。

 やがて一羽が、他のものとは違う異様な光を宿し、じわりと距離を詰めてきた。


 セリーヌは唇を噛みしめる。

(やっぱり……“誰か”が仕向けてる。自然の魔獣の行動じゃない。――いったい、誰が?)


 その答えはまだ遠く、風の彼方に隠されていた。


―――――



 砦の白壁がようやく見えてきたころ、アリアはノアとレオンに支えられたまま、深い眠りに落ちていた。

 その寝顔は安らかで、けれど時折、小さく眉をひそめていた。


「アリア……」

 ノアとレオンは同時に妹を見つめ、決意を込めて拳を握りしめる。


「絶対に守るぞ」

「当たり前だ!」


 二人の声に、セリーヌは小さく鼻で笑った。

「……やれやれ。本当にややこしい兄ィズね」


 だがその表情の奥に、ほんのわずかな安心の色が宿っていた。


――しかし、砦の外壁に到着する前に、思いもよらぬ異変が待ち構えていることを、まだ誰も知らなかった――。


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