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第百十三話 静かな遺跡、そして少しの上の空

 アリアは、学園の二泊三日の課外学習で遺跡地区へ来ていた。ここは昔の魔法都市があったのではないかと言われ、今研究が続けられている遺跡である。



 遺跡地区は、太陽の光が石造りの柱や崩れたアーチに反射し、淡い金色の輝きを放っていた。


 アリアは筆記用具を手に、教師の説明を聞きながらも、つい視線を遠くに泳がせていた。


「……ふむふむ。この遺跡は、おそらく旧時代の魔法都市の研究拠点として使われていたらしいです。各所に残された魔力の痕跡から、古代魔法の応用方法が垣間見えます」


 教師の声が耳に入る。アリアの頭の中では、兄ィズの二人が無人島でボロボロになりながらも修業している姿がちらつく。


『あの二人、今頃どうしてるのかしら……』


 ノアとレオンがいないことで、学園では味わったことのない静けさが遺跡全体を包んでいる。


 最初のうちはその静けさが心地よく、勉強に集中できるような気がした。しかし、ふとした瞬間に思考が別の方向へ逸れた。


『……ああ、でも、やっぱり少し心配かも』


 アリアはため息をつき、筆を握りしめながらも、視線は石柱の影や古い壁の模様に向けられる。


 同じ班の友人たちが質問をしている声も、どこか遠くに聞こえる。


「アリア、聞いてる?」


 ハッと我に返る。ルーシーが目を丸くして立っていた。


「あ、えっと……はい、聞いてます!」


 答えながらも、心の片隅ではやはり兄ィズのことが気になる。


『無人島での一週間……。きっと二人とも、ろくでもない目に遭ってるに違いない……』


 その思いを振り払うように、アリアは筆を走らせた。


 遺跡地区を歩きながら、ガイドの教師が解説を続ける。


「この石板に刻まれた文字は、古代魔法の式文と見られます。形状や組み合わせから、浄化や結界の技術に用いられた可能性がありますね」


 アリアは興味深く石板に手を触れた。冷たい感触が掌に伝わると、微かに残る魔力の余韻が指先をくすぐった。


『……不思議な力。昔の魔法都市の人たちは、こんなことをしていたのか』


 その瞬間、アリアの胸にわずかな期待が芽生えた。


「……あれ、もしかして私も、もっと魔法のことを知れるかも?」


 心の中で小さく笑う。兄ィズがいない分、静かな時間は自分自身の学びに向けられる。


 その時、風が吹き、古びた旗がはためいた。アリアは顔を上げ、遠くに見える崩れた塔を眺める。


『……あそこまで歩いてみようかしら』


 授業の合間に訪れる自由時間。教師の目を気にしながらも、アリアは少しずつ遺跡の奥へと足を進めた。



 塔の奥を慎重に進むアリアは、少し薄暗い通路の先に奇妙な部屋を見つけた。


 扉はなく、簡素な石の入口がぽっかりと口を開けている。中からは、淡い青白い光が漏れていた。


「……な、なんだろう、この光……」


 恐る恐る一歩足を踏み入れる。すると、壁の表面が流れる水のように光りだし、床には複雑な魔法陣がゆっくりと浮かび上がった。


 アリアは一瞬息を呑む。魔力が、魔法陣の光に引き寄せられるような感覚が全身を駆け抜けたのだ。


「……えっ、これ、私の魔力に反応してるの?」


 研究員の数名も部屋の中におり、床や壁に手をかざして調査を始めていた。彼らは興奮気味にメモを取り、装置を操作している。だがアリアの魔力が流れ込むと、魔法陣の輝きが急に強まった。


 その瞬間――


 眩い光が部屋を満たし、アリアと研究員たちは周囲の空気ごと引き込まれるように消えた。


「わ、わあああっ!」


 慌てふためくアリアの声も、光の中にかき消されていく。


 部屋の外では、同級生たちはまだその部屋に入っておらず、光の変化に気づくことはなかった。数秒後、光が収まった場所には誰も残っていない。


 研究室担当の教師が不在に気づくと、同級生たちは慌てて廊下を駆け、教師の元へ報告に向かう。


「先生! アリアさんと研究員の皆さんが……消えました!」

「……消えた、だと?」


 教師も驚きを隠せず、遺跡地区全体が一瞬騒然となる。




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