第百十一話 まさかの魔法修業!? 鳥に乗ってきた謎の女性
山奥の小屋。
今日もノアとレオンは、朝から意味不明な修業に振り回されていた。
「ぐっ……腕が上がらねぇ……!」
「ノア、頑張れ! あと百回だ!」
「お前だってヘロヘロじゃねぇか!!」
木に逆さ吊りにされながら懸垂(?)を繰り返す兄ィズ。その下では老人が腕組みをしてニヤニヤしている。
「ほほぅ、だいぶ根性がついてきたのぅ。もう百回追加じゃ」
「追加すんなぁぁああ!!」
汗だくの二人は心底この生活から解放されたいと願っていた。
◆
そんなある日。
水汲みに行った帰り、レオンがふと手元を滑らせて桶を落とした。
「あっ!」
ガシャーン!
思わずレオンが咄嗟に詠唱。
「《風よ!》」
落ちかけた水がふわりと浮き上がり、そのまま桶の中へ戻っていく。
「……よし、セーフ!」
だが、背後から聞き慣れた声が響いた。
「……ほう?」
振り返ると、例の老人が立っていた。目をギラリと輝かせて。
「おぬしら……魔法も使うのか……?」
「……え? い、いまさら!?」
「この数週間、気づいてなかったのかよ!」
ノアとレオンは顔を見合わせてがっくり。
◆
「ふむ……」と、老人は顎をさする。
「ならば、魔法の修業もせねばならんのぅ」
「――いやいやいや!!」
「もう結構ですから!!」
兄ィズは全力で拒否。
だが、老人は腕を組んでしれっと告げた。
「残念ながら、わしは魔法を教えられん」
「……あれ? ってことは?」
「ラッキー! これで帰れるんじゃ……!」
小声で囁きあう二人。
しかし次の瞬間、老人がさらりと一言。
「よし、少し待っておれ」
そう言って小屋の裏へ回っていった。
◆
「……何をする気だ?」
「帰れるって言ったのに、嫌な予感しかしねぇ……」
しばらくすると。
ドォォォォン!!
小屋の裏から七色の煙がもくもくと天に昇った。
「な、なんだあれは!? 狼煙か!?」
「派手すぎるだろ!!」
驚く二人。だが次の瞬間、辺りが急に薄暗くなる。
「……おい、ノア。なんか空が暗くねぇか?」
「まさか天候まで操作したのか……!?」
二人が空を見上げると――。
そこには、天を覆うかのような巨大な影。
「なっ……鳥!? でっけぇぇぇぇ!!」
「ロック鳥かよ!!」
バサァァァァン!!
突風を巻き起こしながら、その巨鳥は兄ィズの前に着地した。
◆
「ひぃぃぃぃ!」
「ま、またバケモンかよ!」
悲鳴を上げる兄ィズ。
しかし巨鳥の背から、すらりと人影が降り立った。
女性だった。
長い黒髪を風にたなびかせ、凛とした眼差しを向けてくる。ローブの裾からは魔術師らしい杖が覗いていた。
「……呼ばれて来てみれば。あいかわらず突拍子もないのね、爺ぃ」
その声は冷ややかで、しかしどこか慣れた調子。
しばらくして小屋の裏から戻ってきた老人が、満面の笑みを浮かべる。
「おお! 来てくれたか、娘よ!」
「娘って誰だ!?」
「知り合いかよ、じいさん!!」
◆
老人と女性はしばし会話を交わしていた。
内容は――
「この若造ども、魔法が使えるらしい。そこでおぬしに修業を頼みたい」
「……また他人を巻き込むのね。いいわ、久しぶりに弟子を取るのも悪くない」
「……え?」
「……えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
兄ィズの顔が青ざめる。
「な、なんかヤバくないか!?」
「ああ、確実にヤバい……! 逃げろ!!」
◆
二人は同時に駆け出した。
森を駆け、川を飛び越え、谷を越え、必死に逃げる。
「嫌だ! もう魔法修業なんてゴメンだぁぁぁぁ!!」
「俺は帰る! 絶対帰る!!」
だが――。
頭上に広がる影が、彼らを追い続けていた。
「……ついてきてるぅぅぅ!!」
「クソッ、鳥のほうが速ぇぇぇ!!」
巨大なロック鳥は軽々と森を飛び越え、二人の進路を塞ぐように降り立った。
「はぁ……はぁ……」
「終わった……!」
その目の前に、再び女性魔法使いが姿を現す。
涼しげな笑みを浮かべながら――。
「さあ、魔法の修業を始めましょうか」
「――いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫するノアとレオン。
こうして、兄ィズの過酷(?)修業は、新たなステージへと突入したのだった。




