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SF短編集

宇宙迷惑メール、担当者様

今回のテーマは「迷惑メール」だ。もし、人類を救う唯一の方法が、迷惑メールフォルダに眠ってたら? 壮大なスケールと、くだらない真実。

 僕の仕事は、宇宙のゴミ掃除だ。


 国立宇宙電波観測所で、深宇宙から送られてくる膨大なデータの中から、意味のないノイズ――通称「宇宙迷惑メール」を、ひたすら削除する係。それが僕、佐々木だ。


 宇宙迷惑メールは、いつも同じ、一つの座標から発信されていた。その内容は、ひどいものだ。


『【緊急】あなたの望遠鏡を、今すぐ巨大化させませんか?』

『私はアンドロメダのプリンセス。訳あって追われています。私の100億クレジットを、あなたの口座に送金するのを手伝って』

『おめでとうございます!あなたは、100万人に一人の「超新星爆発ツアー」に当選しました!』


 あまりにバカバカしい内容に、同僚たちは「銀河系規模の詐欺師だな」と笑っていた。僕も、そう思っていた。


 そんなある日。観測史上最大級の小惑星が、地球への衝突コースに乗っていることが判明した。


 直径、十キロ。衝突すれば、人類は滅亡する。


 世界はパニックに陥った。あらゆる迎撃ミサイルも、高出力レーザーも、小惑星には傷一つつけられなかった。衝突まで、あと一週間。人類は、なすすべもなく、ただ、空を見上げるだけだった。


 僕の職場も、閉鎖が決まった。どうせ世界が終わるのだ。宇宙のゴミ掃除など、もう誰もしない。


 最後の日。僕は、一人、誰もいなくなった観測室で、いつものように迷惑メールを削除していた。


 すると、その時だった。


 いつもの「プリンセス」や「当選おめでとう」に混じって、一通だけ、見たことのないメールが届いた。


 件名は、ない。


 本文には、ただ一言、こう書かれていた。


『小惑星駆除プログラム「アステロイド・バスター」のインストールを開始します。利用規約に同意しますか?【はい/いいえ】』


 僕は、乾いた笑いを漏らした。なんだ、これは。手の込みすぎた、悪趣味なジョークか。


 だが、もう、どうでもよかった。世界は、どうせ終わるのだ。


 僕は、ヤケクソで、キーボードを叩いた。


「はい」


 エンターキーを押した、その瞬間。


 観測室のメインモニターに、巨大なウィンドウがポップアップした。


『ご購入、誠にありがとうございます!「アステロイド・バスター」のインストールが完了しました。早速、駆除を開始します』


 直後、火星と木星の間の、小惑星帯。何億年も、ただ静かに宇宙を漂っていた、一つの人工衛星が、ゆっくりと起動した。


 それは、超古代文明が、自らの星系を守るために設置した、全自動惑星防衛システム「ガーディアン」だった。


 ガーディアンは、地球に向かう小惑星に照準を合わせると、一条の、空恐ろしいほどの蒼い光を放った。


 光は、一瞬で小惑星に到達し、塵一つ残さず、完全に蒸発させた。


 呆然とする僕のPCに、最後のメールが届く。


『この度は、弊社製品をご利用いただき、誠にありがとうございました。またのご利用を、心よりお待ちしております。なお、今後も、お得なキャンペーン情報をお送りさせていただきますので、何卒……』


 僕たちは、気づいた。


 宇宙迷惑メールは、詐欺ではなかった。それは、古代文明が遺した、超ハイテクな製品の「カタログ」と「広告」だったのだ。


 人類は、何十年もの間、銀河系最高の技術が詰まったカタログを、ただの迷惑メールとして、ゴミ箱に捨て続けていたのだ。


 僕が英雄として、世界中から讃えられたのは、言うまでもない。理由は、地球最後の日に、たった一人、残業して、迷惑メールを律儀にチェックしていた、その真面目な勤務態度を評価されて、だそうだ。

人類の命運が、迷惑メール一つで決まるなんてな。お前らも、迷惑メールフォルダ、たまにはチェックしとけよ? 宇宙の真理が隠されてるかもしれねえぜ。

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― 新着の感想 ―
オーパーツ気味なモノの代金払えるのかね(通貨的な意味と金額的な意味で)
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