シナリオ④
【第四場】
◯メインラボ(昼すぎ)
メインラボにいるキヨたちから、巨大なロボット・マールスは、頭部のみが目視できる状態。本体は地下にまで続いている。
博士「外見は、そのフィギュアと同じに作っているよ。あとは操作方法について、キヨ君の意見を聞ければと思ってね」
キヨ「どういうことですか。特賞の景品は、このフィギュアだったんじゃ?」
キヨ、握っていたフィギュアを突きつける。
博士「いやぁ、それは君を日本へ招くための口実というか」
マユ「姉さん、ちょっと待って」
マユ、姉の口を塞ぐ。
リオ、キヨの肩の上で全身を震わせる。
リオ「アヤミ、きたよ。あと3分」
博士「あちゃー。テストの時間もくれないか。キヨ君、とりあえずあっち行ってきてくんない?」
キヨ、研究員たちに両腕を掴まれ、歩くように促される。
キヨ「は? あ? ええ!?」
リオ、キヨから離れ、操作台の上に鎮座する。
キヨ「なにが始まるんですか? 今から」
研究員に尋ねるキヨ。エレベーターを降りると、目の前には鉄骨の骨組みに囲まれた、マールスの胸元部分がある。
研究員の代わりに、マイク越しに答える博士。
マユ「大丈夫。いつもみたいに、ロボットと戦えばいいんです!」
マユ、研究員に手渡されたヘッドフォンマイクを装着し、語りかける。
リオ「キヨ、早く。あと15秒」
キヨ「せめてちゃんと、説明してください」
キヨの言葉にかぶせるように、リオの声でカウントダウンが始まる。
リオ「10、9、8……」
キヨ「今から、なにがあるっていうんですか!?」
リオ「3、2、1」
カウントダウン終了とともに、破壊音が部屋中に響く。
キヨ「うわっ!?」
崩れ落ちた天井の破片が、鉄骨に当たり、大きな音を立てる。
わずかな沈黙ののちに、鈍色のゴツゴツした腕のようなものが、天井の穴に差し込まれる。
リオ「キヨ、早く中へ入ってください。そこは危険です」
研究員とキヨ、破片を避けるようにして、マールスの本体部分に開いた空洞へ飛び込む。
そこには、キヨの自室そっくりの空間が広がっている。研究員がゲーミングチェアを模した椅子にキヨを座らせ、腰下をベルトで固定する。
博士「次はちゃんと、運転用のスーツも着せてあげるから。今日だけは我慢してね」
キヨ「色々聞きたいことが多すぎるんですけど、これ、俺の部屋……?」
マユ「なかなかの再現率ですよね? パソコンのカメラさえハッキングできれば、いくらでも部屋の様子を確認できますから。あっ! 私はキヨさんの部屋をのぞいたりしてませんので、安心してくださいね!」
マユ、照れたような声で返答する。
雑談の合間にも、マールス内やメインラボで起動の準備が進んでいく。
敵ロボット、侵入経路確保のため、天井の穴を拡張しようと試みている。
博士「色々と思うところはあるだろうけど、とりあえずさ、いつも通りやってみてよ。マールスでの戦いを」
目の前に用意されたのは、見慣れたゲーミングパソコン。
スパジョイのスタート画面が表示されている。
キヨ、おそるおそるスタートボタンを押す。
敵ロボット、屋根を引き剥がし、ようやく姿を現す。
本体は戦闘機のような風体。さらに鉄骨の足場を破壊し、マールスの上半身をあらわにする。それから腕パーツを収納し、マールスの背後から、本体中心部めがけてロケットを放つ。
マユ「キヨさん! 昨年秋の、トーナメント戦第三試合のサーベル技!」
マールス、背中に背負っていたサーベルを抜き、ロケットを目視することなく切り落とす。
マユ「やった!」
リオ「キヨ、工場からマールスを出すよ。あとは自由に戦ってね」
リオのアナウンスと共に、マールスの機体は屋外に飛び出していく。
キヨ、室内で凄まじい圧を感じ、叫び声をあげる。
キヨ「ぎえええぇ! こんな環境で、ゲームできるわけないだろお!?」
マユ「ファイトです、キヨさん!」
博士「まあこればっかりは、慣れるまでの辛抱だよ。あ、改良してほしいところがあれば聞くから、ちゃんと覚えといてね」
キヨ「そんな余裕はないですー!」
マールス、地面に着地。激しい振動がキヨを襲う。
博士「スパジョイと同じように、パソコンを動かせば、マールスは反応してくれるよ。いつものように魅せてね、キヨ君」
キヨ「簡単に言ってくれるよな!?」
キヨのN「俺がトーナメントで勝てるのは、相手のことを、対戦前に調べ尽くしているからだ。リアムのように、行き当たりばったりの戦い方はできない」
敵ロボット、上空を旋回しながら、マールスへ攻撃を続ける。
キヨ「相手の情報が少なすぎる。このまま遠隔攻撃を続けられると、こちらに勝ち目はない!」
マユ「相手のことが分かれば、戦いに勝てますか!?」
キヨ「はあ!?」
マユ「それなら、私がキヨさんのブレーンになります。絶対に、負けさせたりなんかしません。リオ!」
リオ「こちらリオ。外に出たよ。引き続き、あの飛行物体の動きを分析するね」
マユ「お願い姉さん。私、キヨさんと通信を続けてもいい!?」
博士「もちろん。それを見越して、あんたを呼んだんだから」
マユ「キヨさん。そのロボットが近づいてこないのは、工場が邪魔になっているからです。少し狭いと思いますが、今の位置から動かずに戦闘を続けてください!」
キヨ「……ああ!」
キヨ、覚悟を決め、ゲーム用のカチューシャ代わりに飛行機で装着していたアイマスクを装着する。
マユ「本来ならば、むき出しのコックピットを狙えばいいのでしょうが……腕が生えていたことから考えると、おそらくこのロボットは、ある程度変形ができるはずです。パイロット本人をカバーするための仕組みはあるはずですから、他の弱点を探しましょう」
振動に慣れ始めたキヨ、パソコン画面に映った敵を見ながら、大型銃を連射する。
キヨ、目を見開き、口元は楽しげに微笑んでいる。
敵ロボット、空中で攻撃を避けながら、爆発物を落下させてくる。そのうちの数発は、銃で撃ち落とし、最後の一発は銃身をバット代わりにして相手へ返す。
マユ「防御の際の敵の動きですが、7割は反時計回りに機体を旋回することで、攻撃を避けてますね。これはパイロットの癖でしょう」
リオ「おおむね同意。補足すると、反時計回りの確率は6.7割」
マユ「それと防御の直前に、機体を上昇させる癖があります。攻撃の糸口になればいいのですが」
キヨ「ええと、ありがとう!」
キヨ、銃を投げ捨て戦闘機に手を伸ばす。急上昇し、難を逃れる敵ロボット。
キヨ「あのさ。腕はどこから生えてたか、分かるかな?」
マユ「おそらく左右にある、主脚の収納部からでしょう。機体の下部に確認できる穴は、その二箇所と、銃の発射口だけですから」
キヨ「そっか。ありがと、マユちゃん」
マユ「はっはああああぁあ! キヨさんに名前を呼ばれてしまったあぁ!!」
マユ、絶叫する。
キヨ、工場横に崩れ落ちている天井板を拾い、マールスの頭部を隠してしゃがみ込む。
リオ「? キヨ、隠れんぼしてる? 交戦中に?」
リオ、首を傾げる。
博士「なにか考えがあるんだよ、たぶんね」
敵ロボット、構わずに射撃を続けるが、動き出さないマールスに痺れを切らし、腕を生やして屋根につかみかかってくる。
キヨ、屋根ごと敵ロボットを引っくり返し、地面に押しつけた上で、敵ロボットから生えていた銃に横蹴りを入れて、吹き飛ばす。
さらに、敵ロボットの両手の上に屋根を乗せ、そこを踏みつけにして抵抗できない状態にした上で、両腕の生えている二箇所の穴めがけて小銃を放つ。
両翼にある燃料タンクに引火し、激しく燃え始める機体。
慌てて機体から飛び出したパイロットの前に降り立つ、マールス。
操縦士「赫然……」
呆然とするパイロットの元に近づくリオ、口から麻酔針を放つ。
すぐに倒れるパイロット。
リオ「眠らせといたよ。さ、これで一件落着」
キヨ「終わっ……た?」
マールスの中で脱力するキヨ。
キヨのN「これが俺とマールスの、初めての戦いだった。その時は知らなかった。ゲームの世界みたいな争いが、何度も繰り返されることになるとは」
◯リアムの自室(深夜)
暗い室内で、パソコン越しに誰かと通話をしている。
リア「Really?(本当に) じゃあ、楽しみにまってるよ!」
終話。
その場に立ち上がり、ガッツポーズをする。
リア「イエス! あと1ヶ月もすれば、できあがるのか。楽しみだな」
リア、部屋の中をぐるぐると歩き回る。
リア「ああー! 口止めされたけど、キヨになら話してもいいかな。俺だって、キヨの秘密を知っちゃったんだし」
パソコンの待ち受け画面に映る、ロボットを見てうっとりするリア。
リア「俺は、JAPANのアニメに出てくるような、本物のロボットを作ってもらえてるって!」
提出シナリオは以上となります。
戦闘シーンで、マユのアドバイスが生かされていないって??
色々考えてはいましたが、字数制限の1万字を超えてしまうために描ききれませんでした! ごめんなさい!!
初めて挑戦したロボット物。
楽しんでいただけましたでしょうか?
機会があれば、また会おうねキヨ!




