シナリオ③
【第三場】
◯ワゴン車の車内(昼前)
キヨ、疲労で眠りこけている。マユの大きな声が車内に響く。
マユ「起きてください、キヨさん! 到着しましたよ!」
キヨ、飛び起きる。車外で微笑むマユの元に、急いで駆け寄る。
キヨ「ここ、どこ? 俺、ちゃんとホテルの場所を伝えたつもりだったんだけど」
のどかな田園風景のなかに、なぜか近代的なビルと大きな工場群が並んでいる。
マユ「まあまあ。善は急げ、ってヤツです!」
リオ「急げ! キヨ、急げ!」
キヨ、背中を押されるまま、建物のなかへ。
ビルの屋内は、まるで都心のビルのように、忙しなく働くスーツ姿の人間が溢れかえっている。
キヨ「ちょっと。これ、入っちゃダメなとこじゃない?」
リオ「キヨは心配性ね! ウチが連れてったげる!」
リオが床に降り立つと、機械の体を囲うように、床が丸く光る。ハムスターの動きに合わせて、光る丸もちょこまかと動いていく。
光る丸を見て、周囲のビジネスマンたちは道を開けていく。
マユ「さ、いきましょ? キヨさん!」
マユ、意気揚々とリオの後ろを跳ねる。
キヨ「もうほんと、なにがなんだか」
キヨ、猫背のまま早足で追いかける。
リオ、とある扉の前で立ち止まる。そこには『メインラボ』の文字が。
リオ、マユの肩まで登る。マユ、扉をノックする。
松陰寺彩美(以下『博士』表記/29)、扉に備え付けのスピーカーにて、大声で応じる。
博士「マユ? リオも一緒でしょ!? 入っていいわよ!」
マユ「はーい!」
マユ、生体認証リーダーにリオの体を押しつける。機械音が鳴り、扉が開く。
キヨのN「あれで開いちゃうんだ……」
室内は、メインラボというわりには、小規模な個室。一風変わっているのは、一辺の面にのみ、謎の操作台が設けられていること。
突起のあるボタンが大量に備えつけられていて、そちら側だけは、壁面も壁紙ではなく、大きなガラスで覆われている。ガラス面の向こう側は、ぼかしがかかっていて一切見えない。
博士、操作台の正面に立っている。タイトなワンピースの上に、白衣を着用。研究員たちに囲まれながら、顔だけを入り口に向ける。
博士「ようこそ、松前清史さん。ここの総責任者で、松陰寺彩美です! よろしく」
キヨ、扉の横から叫ぶ。
キヨ「キヨでいいですよ! よろしくお願いします」
博士「ええと。早めにきてもらっちゃってごめんねぇ! でもまぁ、楽しみが前倒しになったってことで、許して!」
キヨ「ここは、スパジョイの会社ってことで、いいんですよね!?」
博士「まあ、そんなところだよ。とりあえず、君がお待ちかねの品は、すぐに用意するからね」
博士が目配せをすると、すぐに研究員たちが準備を始める。あっという間に、ガラスケースに入ったフィギュアが準備される。
マユ「あぁー! マールス、素敵!」
キヨ、自分のデザインしたロボのフィギュアを目にして、言葉を失う。
マユ、ガラスケースを運ぶ研究員に近づく。
マユ「宝石のように輝く、赤いボディ! 他のランカーたちの、いかついロボットとは違って、流線型のなめらかな四肢。はぁ……もはや芸術作品ですよ……」
マユ、舐めるようにフィギュアを見つめる。
リオ「マユは本当に、マールスが好き」
マユ「ええ! マールス(戦いの神)という名前がピッタリよね。キヨさん、出来栄えはいかがですか?」
キヨ「あ……あぁ。よくできていると思う」
キヨ、ガラスケースごとフィギュアを受け取る。慎重にケースを外し、台座からマールスを取り出す。
キヨのN「俺の思い描いていた、マールスそのものだ! 本当にすごい」
キヨ、関節の接合部を細かくいじる。
マユ、隣で目を爛々と輝かせる。
マユ「機体の色は、ルビーを意識されているんですよね? 『勝利を呼ぶ石』、マールスにふさわしい宝石です」
リオ「でも、ルビーはそこまで硬くないから、材質としてはイマイチ」
マユ「ウェスペルティリオー!?」
リオ「分かりました、黙ります」
リオ、小さな口を横一文字につぐむ。
キヨ「あの。松陰寺……彩美さん?」
博士「ハカセでいーよ。で、なに?」
キヨ「完璧です。もう、何も直すところはないってぐらいに」
博士「それはよかった。口うるさいアドバイザーのおかげね!」
マユ、嬉しそうに照れる。
マユ「うふふ」
博士「よかったら持って帰って」
キヨ「嬉しいです、ありがとうござます!!」
博士、研究員たちに合図を送る。散り散りになる研究員たち。
博士、キヨの元へ歩いていく。
博士「とはいえ、それはおまけでしかないんだけどね」
キヨ「おまけ?」
マユ「キヨさんきっと、驚きますよー?」
キヨ、混乱して交互に二人を見る。
リオ「早く見せましょう」
博士「オッケー。電気つけてあげてー!」
それまで真っ暗だったガラス面の奥が、眩しく輝く。
キヨ、咄嗟に片腕で顔を覆う。それから、静かに目を開くと、ガラス面の向こうが視界に飛び込んでくる。
とても広い、工場の内部とおぼしき風景。ヘルメットを被ったたくさんの人間が、鉄骨の足場を頼りに働いている。
その足場は、赤い巨大な物体を中心に構築されているように見える。
キヨ、思わずガラス面のある操作台の元へと駆け寄る。
キヨ「嘘だろ!? これって、もしかして」
言葉を失うキヨの肩に飛び乗る、リオ。
リオ「マールスですよ、キヨ。人が乗り込めるほど、大きなサイズのね」




