表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赫然のルベウス  作者: okazato.


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

シナリオ②

【第二場】

◯空港(朝)

   滑走路に飛行機が到着する。にぎわう機内。


キヨのN「やっと着いた……」


   キヨ、アイマスクを外して首から下げ、げっそりとした顔で立ち上がる。荷物はバックパックのみ。


キヨのN「あんまり眠れなかったや……」


   キヨ、ふらふらと飛行機を降りる。


キヨのN「とりあえず今日は、ホテルでゆっくりしよう。明日は、集合時間が早いんだから」


   キヨ、当選時の記憶を思い返す。


◯キヨの部屋(夜)


   リア、共有された当選メールを食い入るように見つめる。


リア「特賞の引き渡しは8月ごろ? 意外と早いんだな。オッ、“当選者を交えて、フィギュアを最終調整”だって? Amazing!(すごい!)」


キヨ「“交通費は全額支給”? アメリカからでも大丈夫なのかな。問い合わせしなきゃ。……あ」


   キヨ、最後の一文でスクロールを止める。そこには、完成するまで他言無用と記載されている。


キヨ「リアム」


リア「分かってる、分かってるよ! 誰にも話さない。俺とキヨだけの秘密だ!」


   キヨ、胸をなでおろす。


リア「その代わり、手に入ったら一番最初に見せてくれよ。キヨ自慢の『マールス』をさ」


   キヨ、壁に貼りつけてあるマールスのファンイラストをちらりと見る。小さな子どもの描いたような、たどたどしい線画。


キヨ「ああ。アメリカに帰ったら、リアムに直接見せてあげるよ」


   キヨ、カメラに向かって拳を向ける。

   それに応えるリア。

   回想了。


   キヨ、肩を狭めて、両手でバックパックの紐を握りしめる。周囲を警戒しながら、バゲージクレームを早足で通り過ぎる。


   出口に到着したところで、長い前髪に隠れていた目を、大きく開く。


   到着ロビーで待ち構えていたのは、巨大な歓迎幕を体の前で広げた松陰寺麻友(以下マユ表記/16)。


キヨのN「なんだこれ!?」


   幕には『熱烈歓迎 kiyo様』の文字が。低身長のマユは、頭頂からひざのあたりまで隠れてしまっている。


キヨのN「これって、俺のこと……だよな?」


   キヨ、棒立ちで歓迎幕を見つめる。

   マユ、幕の裏で足を止めている人物がいることに気がつき、勢いよく顔をのぞかせる。


キヨ「わっ!?」

マユ「kiyo様ですか!?」


   マユ、ロビー中に響き渡る声で問いかける。こぼれそうなほどに大きな瞳が、きらきらと輝いている。


キヨ「そうだけど」


マユ「やっぱり! 初めまして、kiyo様。お会いできて光栄です!」


   マユ、勢いよく頭を下げる。あまりの大声に、周囲からは注目を浴びる。


キヨ「わっ、わっ! 声がデカいって!! そんで、キヨでいいから」

マユ「呼び捨てなど! 恐れ多いです!」

キヨ「じゃあせめて、『さん』付けにしてくんない!?」

マユ「キヨさん? それはそれで、素敵な響きですねぇ」

キヨ「とにかく! ここは邪魔だから、別のところへ行こうか!?」


   キヨ、うっとりするマユの背を押しながら、壁側へと移動する。


   キヨ、肩で息をしながらマユを見る。

   マユ、にっこりとした笑顔で、キヨをまっすぐに見つめ返す。


   歓迎幕を握りしめる少女は、キヨより20センチほど小さい。


キヨ「君は誰? どうして僕が日本にくることを知っていたの? 見たところ、スパジョイ関係者ってわけでもなさそうだけど」


マユ「ああっ! 申し訳ありません。感動のあまり、名乗ることを忘れておりました」


   マユ、ポシェットから慌てて、縦長の封筒を取り出す。


マユ「私、『スパークル・ウィズ・ジョイ』の運営代理としてまいりました、松陰寺麻友と申します!」


   キヨ、疑いながら手紙を開く。差出人はスパジョイ運営。


   『遠路はるばる日本を訪れた若いプレイヤーを、不慣れな土地で一人きりにするわけにはいかない』『急遽案内役をつけることにした』旨が記載されている。


キヨ「失礼だけど……本当に、君が案内役?」

マユ「いえ。正確には、私ではなくこの子が案内役です」


   マユの差し出した手のひらの上で、小さなハムスター(型のロボット)が、ちょこんと仁王立ちしている。


   マユ、キヨの不審な目に気づくことなく、話し続ける。


マユ「この子はウェスペルティリオ。でも私は、『リオ』って呼んでます。さ、リオ! キヨさんにご挨拶しましょう」


キヨ「いや、あのさ。さすがに冗談きついって! いくら手紙を持っていたとしても、子どもやハムスターがスパジョイの案内役に選ばれるわけないでしょ!?」


   リオ、マユの手のひらの上で姿勢を正し、口を開く。


リオ「キヨは勘違いしてますね! ウチはハムスターじゃなくて、ロボットですよ。それも最先端の」


キヨ「ロボットだかハムスターだか、分かんないけどさ。どっちにしろ嘘をつくのは……って、しゃべったあ!?」


リオ「そうですよ。ウチがキヨに話してます」


マユ「驚かせちゃってごめんなさい。この子、私の姉さんが作った試作品で……ああ! 私の姉さんが、今回キヨさんを招いた特別チームのリーダーなんですけど」


   キヨ、呆然とリオを見つめる。そのうち、マユのTシャツに描かれた模様に気がつく。それは、キヨが自室に飾っているファンイラストと同じものだった。


キヨ「マールスのイラスト。それ、なんで」


マユ「もしかして、覚えててくれましたか!? 私、スパジョイではこの子の名前を借りて、『リオ』としてプレイしてるんです。この絵はキヨさんが初めてランキングで1位を取った時に、お祝いで描かせていただいた絵で」


マユ、照れながら饒舌に話す。


キヨのN「忘れるわけない。俺が初めてもらったファンイラストだ。そうか、この子が『リオ』だったのか」


マユ「キヨさんが日本までいらっしゃると聞きましたので、ぜひとも私が! と、付き添い役をかってでたわけです。ですが、予告もなしに迎えにこられても、困りますよね」


   マユ、うなだれる。


キヨ「いや、『リオ』のいうことなら信じるよ」


マユ「キヨさん……!」


リオ「キヨ、ようやくウチのことを信じましたね」


キヨ「いや、君じゃなくて『リオ』……ああもう、めんどくさい。なんて呼べばいいかな?」


マユ「ではマユでお願いします、キヨさん」


キヨ「じゃあそれで。イラスト、ありがとう。ずっと勇気をもらってたよ。これからよろしくね」


   キヨ、手を伸ばす。リオはマユの頭上に移動する。


マユ「ひええぇえ……恐縮です……」


   マユ、腰が引けた状態で手を握り返す。


キヨのN「分かってはいたけど、この子は本当に、俺のファンなんだ。嬉しいけど、なんかこう……奇妙な感じだな」


   拝むそぶりを見せるマユに、戸惑うキヨ。マユの頭上では、リオが首を傾げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ