シナリオ①
【第一場】
◯キヨの部屋(夜)
暗い室内で、ゲーミングパソコンだけが色鮮やかに輝く。画面上には赤いロボットが対戦しているゲーム映像。
松前清史(以下キヨ表記/17)、パソコンに近づけた顔が煌々と照らされている。
キヨ、不的な笑みを浮かべる。
キヨ「これで終わりだ!」
キヨ、キーボードを巧みに操作し勝利。ガッツポーズで大声を上げる。
パソコン画面がランキング表に切り替わる。
キヨ、対戦後すぐに、カチューシャを外す。前髪が顔を覆い、表情が隠れてしまう。
一息ついたところで、オンライン通話の通知音が鳴り響く。
相手は友人のリアム・ホワイト(以下リア表記/27)。癖のある日本語で話し始める。
リア「“kiyo”! 完璧な蹴りだったよ、いつのまにあんな技を手に入れたんだい!?」
キヨ、対戦時とは異なり、こもった声でぼそぼそと返す。
キヨ「やあ、“White Wolf”。空手の動きを勉強してみたんだ。相手の隙をつきたくてさ」
リア「ウー。さすがジャパニーズ! 生意気な猫ちゃんが吹っ飛んだ時は、思わず叫んじまったよ!」
キヨ、対戦相手が虎柄のロボットだったことを思い出し、苦笑する。
リア「なあ、そろそろウィナー(当選者)が発表されるな」
キヨ「そういえばそうだね。今日は……31日か」
キヨ、スパジョイのインフォメーションページを開く。『当選者発表は5月末ごろの予定』との表記。
時刻はまもなく、22時(日本時間で12時)を迎える。
キヨ、パソコン画面をスクロールし、『特賞(一名) あなたのデザインしたロボットが、夢のフィギュア化!?』の箇所で手を止める。
キヨ「そういえば、TRPGの大会で優勝したんだって? おめでとう!」
リア「ワオ。サンキュー、キヨ! あっちはチームで闘えるからね。仲間のおかげさ!」
リア、画面越しに、二の腕の筋肉を見せつける。
キヨのN「このゲームしかプレイしていない俺が、プロゲーマーのリアムと出会えたのは、本当に運がよかったと思う」
回想。
パソコン画面の端に映し出された、ゲームのタイトルロゴ『スパークル・ウィズ・ジョイ』が大写しになる。
小学生時代のキヨの回想。泣きながら帰宅する。背負ったリュックには落書きの跡。
帰宅早々、旧式のパソコンでゲームを起動。『スパークル・ウィズ・ジョイ』のタイトルロゴ。
馴染みのある日本語でチャットするゲーマーたちを見て、ほっとするキヨ。
そのチャット内で、怪しい日本語を使い、会話を試みようとする人物が現れる。アカウント名は『White Wolf』。
キヨは勇気を出して、彼にメッセージを送る。
キヨのN「あの日、俺がメッセージを送ったのは、他のプレイヤーから見向きもされないリアムが、孤独な自分と重なったからかもしれない」
走馬灯のように、断片的な思い出の画像が流れていく。
親しくなる二人。次第にキヨのゲームの腕が上がっていく。
キヨのN「まあ、リアムがここまで人懐っこいやつだとは思ってなかったけど」
キヨの誕生日。リア、自室にフラッグガーランドを装飾し、パーティーハットをかぶって、シャンパンで一人乾杯している。
回想了。
キヨのN「学校でくだらない嫌がらせをされても、いつしか気にならなくなっていた。それはきっと、リアムがいてくれたからだな」
リアは他ゲームでの戦闘話に花を咲かせている。
リア「ん? ちょっと待てよ。運営から、個別メッセージがきたぞ!」
キヨ「え、スパジョイから? それ、当選連絡じゃない!?」
キヨ、メッセージボックスに移動する。DMの山のなかに、運営からのメッセージも表示される。
キヨ「あ、俺にもきてるかも」
リア「アー! ダメだ、五等賞だ。まあ、せっかくだし、しばらく使ってみるかあ」
リア、景品のコスチュームをパイロットのアバターに装着させる。海賊のような装備で、ポーズを決めるアバター。
リア「悪くないね。なあ、そっちはなにが届いてた? ……キヨ?」
リア、画面越しに固まるキヨへ声をかける。
キヨ「なあ、リアム。俺、すごいの引き当てたかもしんない」
キヨ、うわずった声で話しながら、画面を共有する。
届いたメッセージには、【特賞受賞】の文字。
リア「No way!(ウッソー!?)」
リア、その場に立ち上がったため、オンライン通話の画面から顔が消えてしまう。




