表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/42

第40話 聖杖剣


「く、ククク……分かっていますよ。あなたの根幹はその杖であると。しかし、私も決して馬鹿ではない。ただ真正面からぶつかり合うことが戦闘ではないことを、教えてあげましょう」

「……」


 俺は相手の一挙手一投足を見逃さないように凝視する。この地下空間では、水の音だけが反響している。


 そして、あろうことかレルは杖を捨てた。同時に彼の体には再び魔力が集約していくが、それは先ほどまでのようにただ溢れているだけではない。


 体の中に留めてようとしているのか。俺は一連の行動で、相手がどのような攻撃を仕掛けてくるのか察していた。


 レルの体中には真っ赤な線が走り、それは魔法刻印そのものである。魔力の濃度があまりにも高いため、発露している形だ。なるほど。そういうことか。


「ふふ。すぐに死なないでくださいよ──?」


 転瞬。レルの姿が俺の目の前から消え、彼の姿は俺の背後へと回ってくる。


 一瞬の錯綜。俺はすぐに防御魔法を展開し、来るべき衝撃へと備える。それはただの身体強化ではあるが、尋常ではない密度である。彼の拳は俺の防御魔法ごと殴り、俺は後方へと飛ばされていく。


 まるでピンボールのように俺は跳ねていくが、これはあえて後方へと運動エネルギーを流すことで、極力ダメージを分散させていた。


 俺はすぐに立ち上がる。


「おっと。どうやら、耐えたようですね。しかし、これで分かったでしょう? あなたと戦いになると思った時から、この奥の手は出すことを決めていました。魔法使いである以上、近接戦闘であなたに有利はありませんよ。ククク……」


 レルは歪に笑う。確かに、彼の戦闘スタイルは非常に理にかなっている。魔法使い同士の戦闘では、魔法が飛び交う。しかし、魔法使いは近接戦闘に弱いのはあまりにも有名話だ。それは魔法の詠唱速度と近接戦は非常に相性が悪いからだ。


 レルはおそらく、長年近接戦の訓練をしてきたのだろう。それが非常に良く窺える。だが、どうしてこういう奴らは、努力の方向性を間違えるのだろうか。


 その力を振るう先は──他者を蹂躙するため。


 ならば、俺の相応の力で迎え撃とう。本当はあまりこの力は使いたくはなかった。なぜならば──


「──来い」


 俺は魔法によって収納されていた──とある剣を取り出す。黄金の輝きを放つそれは、一見すれば分かるはずだ。


「……それはまさか」


 レルに緊張感が走る。彼もこれを見て、すぐに理解したようだ。近接戦は自分に分があると思い込んでいたようだが、それは俺も同じだ。


「聖剣だ。これを見て、お前も分からないわけじゃないだろう」

「……まさか、まさか、まさか! 賢者ルシウスと剣聖アーサーは同一人物だったのか……!?」

「ご名答。どうやら喧嘩を売る相手を間違えたな」

「馬鹿な!? 魔法と剣の二つを両立するだと……!? それも、世界最高クラスで……!? お前は一体、何者だ──!?」

「──俺はただの怠惰な人間さ。いつだって平穏を望んでいる。が、自分の脅威となるのならば、全力で排除しよう」


 これは過去、実験的に試したことがある。聖杖と聖剣を一時的に組み合わせる。この世界には魔法剣士という存在があり、杖剣と呼ばれるものを使用する。


 杖の先に剣が組み込まれており、魔法と近接戦が同時にこなせるものである。


 そして、聖杖と聖剣を組み合わせればどうなるのか。俺はその二つを魔法によって一時的に融合させ──新たな聖遺物を生成する。


「──聖杖剣、イクスティアル」


 黄金の輝きを放つ杖剣が俺の手に握られている。全体的に剣よりも短く、杖よりも長いという感じだ。イメージとしては、限りなく短剣に近いが、これで良かった。


「ま、待て待て待て──!? なんだそれは!?」

「身体強化を維持しろよ。じゃないと、体が弾け飛ぶぞ──」


 俺もまた身体強化をして、レルへと肉薄する。うん。動きは悪くはない。俺は一気に距離を詰めると、聖杖剣を真っ直ぐ縦に振るう。それには炎を纏わせてあり、俗にいうエンチャントである。


 今までは実戦に導入したことはないが、さて。どんな結果を見せてくれるのか。俺はもはや、この戦闘を実験と見なしていた。


「ぐうぅ……アアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 俺と同等の身体強化をしているレルだが、この聖杖剣の威力は尋常ではない。彼の魔力防御を易々と斬り裂き、彼は激しく出血する。もう、この一瞬だけで勝敗は決した。


 さらに魔力が高まっていく俺と、満身創痍のレル=アルフォード。


「──大丈夫だ。殺しはしない」


 俺はゆっくりと地面に伏せている彼に近づいていく。なんとか出血を抑えて、彼は俺から逃げるようにズルズルト後方へと下がっていくが、距離は確実に詰められていく。


 格付けは終わった。どれだけ違法な手段に手を染めたとしても、俺の前では全てが無意味。それがこの聖杖剣の威力である。


「……ひっ。ば、化け物め……っ!」

「化け物? まぁ、それは否定しないさ。だが、これも全て俺が生き残るためだ」

「お、俺は上位貴族だ……! これ以上、俺に無礼を働いて良いと思っているのか……!?」

「はぁ」


 俺はため息を漏らす。どうしてこの手の輩は窮地に陥ると、そんなチープな言葉を吐き捨てるんだろうな。そんなものを気にしているのならば、初めから戦っていないというのに。


 そんなことすら分からないほど、焦っているんだろうな。


「お前は魔法師団に引き渡す」

「ククク……俺の力があれば、すぐに解放されるさ……! は、ははは!!」

「……確かにな。それもそうか」


 まぁ、それは事実かもしれない。法によって裁かれるのは難しいかもしれないのは、俺も分かっていた。こいつは裏でさまざまな人脈を築いているだろうしな。


「なら、こういうことにしよう。お前は原因不明の病で意識不明の重体になる」

「──は?」


 俺の提案にレルは呆然とする。俺が殺さないと分かって、安堵していた顔が一気に恐怖染まっていく。


「病院での維持費は俺が特別に出してやるよ。金は余っているからな」

「ま、待て待て待て! な、何を言っている……?」

「ん? いや、法で裁くのが難しいのならば、俺が裁く。本当は殺してもいいんだが、殺人は俺としても不都合があってな。それに、まぁ……仲間は好まないだろうしな」

「わ、分かった! 金は出す! だから、俺のことを助けろ……!」

「もう遅い。じゃあなレル=アルフォード。またいつか、会える時まで」

「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺は精神干渉系魔法を発動。そして、彼の精神を凍り付かせる。ゆっくりと彼の体は止まっていき、完全に息を失う。目覚めるのは一体いつになるのか。まぁ、数年後か十年数年後なのか。俺の気の向くままという感じだ。


「ウィル様。お疲れ様でした」

「流石の腕前です。やはり、あなたは神そのものです」


 いつの間にかアイシアとフレッドが俺の元へとやって来ていた。どうやら、無事に事態は収束するようだな。


 さて、ルイスの方はどうなっているか。俺は念のため、ルイスとサリナの様子を見にいくことにするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ