表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/42

第28話 本質


 俺はライラの後へついていく。その小さな足取りは、本当に子どものようにしか見えない。機嫌がいいのか、スキップまでしてるしな。


 でも、ちゃんと成人しているし、魔法師団の団長なんだよなぁ。


「私が美味しい紅茶淹れてあげるから、楽しみにしててよ」

「あぁ。てか、そこは部下にやらせろよ」

「えぇ……だって、みんなの淹れる紅茶、あんまり美味しくないしー」


 あからさまに顔をしかめるライラ。一応は貴族の令嬢なのだが、彼女は例外的な存在だな。本当に。


 と、二人で雑談をしながら建物の中へと入っていく。室内は荘厳な雰囲気が漂っており、至る所に派手な装飾がある。それに飾ってある絵画などもかなり高い物なのだろう。


 床に真っ赤なカーペットが敷いてあるしな。全く別世界のような感じだ。


「お疲れ様です。団長」

「ういー。お疲れー」

「そちらの方は?」

「賢者ルシウスだよー」

「はっ!? あの賢者!?」


 ちょうど団員とすれ違う際、彼は賢者に対してかなり驚いていた。ふ。まぁ、賢者ほどの実力になれば流石に魔法師団でも有名か。決して悪い気分ではない。


「ずっと引きこもりで、ろくに学会にも出てこな上に人見知りで有名なあの賢者……!?」

「うん。そだよー」

「……」


 ひどい言われ様である。しかし、賢者になってからちゃんと活動をしているのは、ここ最近の話。普通に見れば、確かにただの引きこもりか。


 ぐすん……賢者ってみんなに尊敬されていると思っていたのに。剣聖ほど活発に動いていないので、賢者の人間として評価は高くないらしい。


「じゃ、私たちは話があるから。バイバーイ」

「はい。失礼致します。賢者殿もごゆっくり」

「あぁ」


 相変わらず、めっちゃフランクだなライラは。こんなロリっ子が団長なのは、団員的に何も思わないのだろうか。優秀なのは分かるが、どこか気が抜けるというか……。


「ほい。じゃあ、そっちの部屋の椅子にでも座って〜」

「……これはまた、凄いな」

「あぁ。書類が多くてねー」


 ライラの部屋に案内されたが、そこは書類で溢れていた。壁は全て本棚になっており、地面にも本が散乱している。机の上にはこれでもかと書類が溢れている。


 そして、隣の部屋にある応接室で俺は着席して待機する。そこは比較的綺麗になっていたので、安心する。


 しばらくするとライラが紅茶を持って来てくれた。湯気が立っており、非常に熱そうだ。


「はい。どぞー」

「感謝する」


 俺は紅茶を早速いただいてみることに。すると、俺はあまりのうまさに言葉を失ってしまう。ま、マジか……これはアイシアが淹れるものよりも美味いかもしれない。


「へへーん。美味しいでしょ」

「あぁ。今すぐにでも専門店を開いたほうがいい」

「今準備ちゅー」

「そうか……」


 すでに取り組んでいるらしい。団長の仕事だけでも忙しいだろうに、手広くやるんだな。


「ねぇ、思うんだけどさ」

「なんだ?」

「──私と結婚しなよ」

「ぶほおっ!」


 飲んでいる紅茶を盛大に吹いてしまった。口元からポタポタと紅茶が滴ってしまう。


「はい。タオル」

「す、すまない……」


 ライラは至って普通な様子であるが、今なんて言った……?


「ルシウス独身でしょ?」

「そ、そうだが」

「貴族じゃないでしょ?」

「……ま、まぁ」

「へぇ。貴族なんだぁ。ま、あなたのことは深く詮索しないよ。理由はあるんだろうし」

「……」


 何で俺ってすぐに嘘がバレるの? そんなに分かりやすいのか……? と、自分のことが心配になるが、今はそれよりも結婚の件だ。


「なぜ、俺と結婚したいんだ? それほど親密でもないだろうに」

「会った回数は少ないね。でも、合理的だと思うんだ」

「合理的?」

「私の才能とあなたの才能。掛け合わせれば、優秀な子どもが生まれるじゃない」

「生物学的には可能性はあるが、そんな理由で?」

「貴族って面倒なのよねー。でも、ある程度は選びたいじゃん。私の場合、釣り合う才能の男があなたしかいないのよ」


 いやいや、そんな理由で結婚を決めっていいのか? いや、貴族ならいいのか……? 今になって、貴族社会の複雑を再認識する。でも、そうか。より強い才能を求めるのならば、それは避けては通れない話だ。


「でも、才能だけじゃないの」

「それ以外もあるのか?」

「うん。あなたって、ちょっと庶民ぽいじゃん。なんか落ち着くっていうかね」

「う……」


 バレている。俺の前世は社畜のサラリーマン。普通の大学を出て、ブラック企業に就職。給料も大したことはなく、まさに庶民オブ庶民。誇れるのはワンオペになれていることぐらい。


 この世界では貴族で裕福な家庭ではあるが、その気性は抜けていない。まさか、そんなところまで見抜かれているとは……。


「魔法は天才的だけど、ちょっと抜けてるところが可愛いというか。ほら、私って変でしょ?」

「自覚あるのか」

「うん。周りと合わないなーって思うし。でも、あなたとは波長が合うと思うの。婚約しよ?」

「無理だ……」

「何で?」

「こう言うのは、ほら。もっとお互いを知ってから、と言うか何というか」

「なんか童貞みたいな事言うね」

「……っ!」


 ぐ……深く、その言葉はあまりに深く俺に突き刺さった。なぜならば、それは悲しくも事実だからだ。ライラは俺の反応を見て、ニヤァと笑っている。


「ははは! 図星だ!」

「うるさい!」

「ふふ。いいね。別に燃えるような恋がしたわけじゃないし。私はただ、一緒になるなら自分らしくいれる人がいいの。ま、別にすぐに了承してもらえるとは思っていないよ。また会ったら定期的に言うから」

「……マジでやめてくれ」

「ふふふ。それはどうかな〜。婚約してくれたらやめるかも?」

「いや、婚約したら意味ないだろ。しかも、かもって何だよ。仮に婚約しても言い続けるのか」

「婚約したら、毎日婚姻届にサインもらうように催促するから」

「こえーよっ!」


 はっ! 気がつけばライラのペースに乗せられていた。全く、油断も隙もあったもんじゃない。正直、この世界でライラが一番油断してはならない相手もかもしれない。


「ははは! いや、面白いわー。やっぱ、私って見る目あるんだよねぇ」


 ケラケラと笑っている彼女は、あまりに笑いすぎて微かに涙が出ているほどだ。くそ……俺のことをおもちゃにしやがって……!


「で、話って?」

「単刀直入に言おう」


 先ほどまでの意識を切り替えて、俺はライラに真っ直ぐ言葉をぶつける。ここから先は、真剣に話をしなければならない。


「王国内で広まりつつある、ドラッグについて知りたい」

「へぇ……知ってるんだ」


 空調が入ったわけでもないのに、室内は凍りついた雰囲気になる。これが魔法師団の団長であるライラの本当の姿。彼女は目をスッと細め、俺に視線を向けてくる。


 並の胆力では怖気付いてしまうほどには、ライラの視線は厳しいものだった。


 そして俺は、真の姿を見せたライラと対峙する──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ