第17話 秘密
「僕は至って普通の家庭に生まれました」
「……」
俺はルイスの秘密に耳にを傾ける。それは原作を知り尽くしている俺でさえ知らない情報。一体、世界はどのような方向に進んでいくのか。
俺は彼──ではなく、彼女の情報を得て吟味しようと考えている。
「女の子として生まれましたが、僕には光属性の魔法適性がありました。それが全ての始まりでした……」
悔いるかのように、ルイスは話を続ける。
「父と母は喜び、僕はきっと勇者になることができるのではないか。そう言われていました。親族たちも大喜びで、幼い頃は僕も嬉しかったです。しかし、歴代の勇者で女性は一人もいません」
確かに女性の勇者の話は聞いたことがない。この原作では最後に魔王が復活して、勇者として覚醒したルイスが魔王と対峙することになるが……そのルイスは男である。今の状況とは異なる話だ。
「だから僕は男として振る舞うように言われ、それをずっと続けて来ました。両親だけではなく、親族の人たちも僕に大きな期待を寄せていましたから……いつか勇者になるために、僕はずっと男装をしてきました」
「そうだったのか」
俺の知っているルイスとは少し異なるが、彼女が境遇が非常に特殊なものになっているのは理解した。
きっと両親や親族はとても喜んだのだろう。そこに悪意などなく、純粋に自分の子どもが勇者になって欲しいと願った。
確かに原作ではルイスは物語の中盤以降は勇者として覚醒し、獅子奮迅の活躍を見せる。しかしそれは、男のルイスの話である。
今の俺の目の前にいるのは、女性のルイスだ。きっと、今まで数多くの苦労があったに違いない。
他者に無理強いをさせられる、それも性別を偽るように言われてきたのは大きな心労を伴うだろうに。
「僕も自分は勇者になるんだと思い込ませて、今日までずっと頑張って来ました。正直、この魔法学院に来るのは怖かったです。平民は僕だけだし、僕の本当の姿がバレてしまうと……きっと皆さんを失望させてしまうから……ウィルさんも失望しましたよね? 女が勇者になるために男のふりをしているなんて、滑稽だと」
周囲の過度な期待に押しつぶされそうになっているルイス。光属性の魔法適性というのはそれだけ周りが羨むものなのだ。それに、どこか自暴自棄になっているにも見えた。
今までの話を聞いて、俺は素直に彼女に言葉を投げかける。
「──別に俺は失望なんてしない」
「え……?」
彼女は顔を上げて、俺のことを潤む瞳で見つめてくる。
「男だろうが、女だろうが、ルイスはルイスだろう。それに勇者は今までが男であっただけで、女の勇者がいてもいいだろう。そんなルールはないだろ?」
「それは……そうですけど。やっぱり、伝統は大切ですし……」
「そんなものはぶち壊せばいい。少なくとも俺は気にしていない。ま、でもこの学院で無理に性別を明かす必要はない。そのままでいたいのなら、それでいい」
「誰かに言ったりしませんか……?」
懇願する目を向けてくるが、そんな意地の悪いことをするつもりはない。すでに世界は俺の知るものではなくなっている。将来、ルイスと戦うことになることすら不明だからな。
「しない」
「ぼ、僕何でもしますから……! だからどうか……!」
「いや、しないって言ってるだろ」
「うぅ……その……あんまりえっちなことは得意じゃないですけど」
「おい。話を聞け」
俺はルイスの肩を揺らす。どうやら、自分の本当の姿がバレてしまい、かなり動揺しているようだな。
「あ。その……すみません」
「まぁ、ともかく俺は誰かにお前の秘密を言うことはないし、そこは安心しろ」
「そうですか。本当にありがとうございます」
いつものようにペコリと頭を下げるルイスを見て、俺は思う。
やはりその仕草は一つ一つは、女性らしさが微かに残っている。イケメンと言われればそうだが、美女と言われたらそう思えてくる気がする。
どちらにせよ、ルイスが美形なことに変わりはないからな。
「じゃ、俺は行く。まぁそんなに肩肘張らずに頑張れよ」
「はい! ありがとうございます!」
ルイスの秘密を知ることはできた。やはり改めて、彼──じゃなかった。彼女がそれなりに不遇な立ち位置いることは原作通りだ。全体が全くの別物になっているわけではなく、多少の差異があるという認識でいいか?
しかしやはり、俺が死ぬことになるイベントはやってくるかもしれない。万全を期すために、やはりアイシアが提案したように、裏で世界を支配するための組織は必要かもしれないな。
†
「では、ダンジョン演習のパーティを今回は組んでもらう。パーティ人数の上限は三人だ」
ついにこのイベントがやってきたか。ダンジョン演習ではルイスがサリナとパーティを組んで、親睦を深めていくイベントだ。
しかし、ルイスは女性だ。その場合、このイベントはどうやって進行していくんだろうな。
そして俺と言えば、相変わらずボッチなので仕方なくソロでこの演習に取り組もうとしていた。上限が三人なだけで、一人はダメなんてルールはないからな。といっても、おそらくは学院側も想定していないだけと思うが。
「あ、あの……」
教室内は誰とパーティを組むのか、という会話で溢れていた。全員が教室内で声を掛け合い、続々とパーティが生まれていく。
その中でなぜか、ルイスが俺の目の前にやって来た。
「どうした」
「僕と一緒にどうですか?」
「……」
思案する。どうしたものか。だが、ルイスのまるで子犬の様な姿を見て、俺は断ることはできなかった。彼女は今まで重圧にさらされていたが、俺だけはその秘密を知っている。
彼女としても俺と行動した方が色々と都合がいいのだろう。
「あぁ。まぁ、構わない」
「やったっ!」
おいおい。そんな喜び方をするなよ。まるで乙女のようじゃないか。いや、俺が女だと知っているからそう感じるのか? ぐ、ぐおおおお。何だか自分の性癖が歪んでいっている気がする……。
「私もいいかしら?」
教室内でずっと声をかけられていたサリナは、なぜか俺たちにそう言ってきた。
「あ、えっと……」
「どうして俺たちと? お前は公爵家の令嬢で、俺たちは怠惰な貴族と平民だぞ」
周りから見れば、俺とルイスの組み合わせは全く魅力的ではないだろう。依然としてやる気のないように見える俺と、光属性の魔法適性があるとは言え、平民のルイス。
そこに純血の貴族様がやって来るのは、お門違いってものだ。
「私、興味があるの」
「あぁ。やっぱりルイスは──」
その先の言葉はサリナに遮られた。
そして彼女は俺に向けて、真っ直ぐ視線を送ってきて──こう言い放った。
「いいえ。私、あなたに興味があるの」
「は──?」




