脱出!生還!そして帰還へと、エピソード25
前菜の後はスープとなるらしい。
この場合、合わせるドリンクは無いそうな。
まぁ、そうだろーなぁ。
前菜の皿が下げられ、スープが配膳された?
スープなんだよな、これ?
転生さんの記憶では、パイってヤツじゃね?
いや、待て!
転生さんの記憶にな、パイを被ったスープが。
いやさぁ、パイを被るって、なによ?
その記憶に従い、スプーンで香ばしい香りを発するパイを崩す。
途端に薫る馥郁たる芳醇な香りに陶然となってしまったよ。
んだぁ、この香りはぁっ!
五感強化された俺の鼻にて、この香りの正体は複数の食材が関与していると、判別できた。
いや、百数十種類だな。
香辛料や香草に調味料を鑑みると、さらに色々と入っているだろう。
香りに導かれるかの如く、いつの間にか匙をスープ皿へ。
カップのような深皿へと、匙を差し入れてスープを掬う。
無意識に近い感じでな、気付いたら匙が口へとな。
口内へと匙が侵入して、スープが舌の上へと流れる。
!?
旨みの津波が襲い掛かり、それが溢れて洪水にぃっ!
あ、ああっ、あぁあぁぁっ!
旨みに翻弄されるぅ!
その時だ。
脳裏に転生さんの記憶が!
佛跳牆。
それがスープの名前?
いやな、転生さんは情報として知ってはいたが、食べたことは無いらしい。
なにせ超高級料理であり、庶民の手が出せる代物では無かったのだとか。
ただ有名なスープであり、その香りに魅惑された修行僧が、修行を忘れて塀を跳び越える勢いで現れた、っと言う逸話から、名前が付けられたのだとか。
そのスープが放つ芳醇な香りと、その香りに負けぬ旨み。
知らぬ内に、匙をスープ皿へと差し入れ掬い口へとな。
そしてスープの具。
野菜しか入ってはいない。
だが口に入れると、スープを吸い含んだ野菜がな、溶けるように崩れてなぁ。
旨みの爆弾か?
いや、違った。
コッチが爆弾だわ。
薄皮の下の実が煮込まれたことで全て溶け、歯に当たって弾けた薄皮の下から、このスープを含み溶けた実が弾ける!
旨み爆弾だっ!
この味は、衝撃的だったよ。
一瞬意識が飛んだからなっ!
ある意味、凶器だっ!
もうな、無我夢中で匙を動かし、スープを口に。
気付いたらな、カツン、カツンって。
いや、なに?
そう思ったらな、空の器を匙、つまりスプーンでさ、必死に掬ってる俺が居た。
え?
なに、これ?
怖いんですが?
怒涛の旨みに翻弄され、記憶が曖昧だ。
ただ、ただ、あの旨みの余韻がさぁ、実に気持ち良い。
ハッ!
ヤバい薬とか、入ってねーよなっ!
そしてスープ皿が、スープ皿がぁー、下げられるぅ。
もうちょっと、さ。
いや、スープは残って無いんだけどね。
あまりの衝撃的な美味さに、思わず我を忘れてしまったよ。
そして目の前に出されたのは、グラスへ入った、なんの変哲もない水。
普通の水だよな?
あの衝撃的なスープの後なので、思わず警戒を。
まぁ、出されたから飲むけどさ。
これは…うん、美味い。
いや、クリアで素直な天然水?
蹂躙された口の中がリセットされた気分だ。
いわゆる軟水と言われる水だろう。
酒の仕込み水としても、通用するだろう。
なんかさぁ、水を飲んだらホッとしたよ。
気分も落ち着きました。
ん?
それを狙って水を出したのか?
やるなっ!




