脱出!生還!そして帰還へと、エピソード22
元々腹が減っていたのに食前酒のせいで、猛烈な飢えが!
いや、最早、飢餓か?
そんな俺の前へ配膳されたのは…一口大のゼリー寄せと、何かのチップス。
え?
前菜前のアミューズグール?
なにそれ?
え?
料理提供前のお持て成しみたいな物?
突き出しみたいな物かぁ…
違う?
これから、お出しする料理の期待を盛り上げて頂くため、シェフが力量を示す試金石らしい。
つまりは、渾身の逸品であり、突き出しとは異なるらしい。
突き出しとは違い、料金は取らない。
このアミューズグールを食べて、キャンセルして帰る客も居るそうな。
だから腕に自信が無いシェフは、アミューズグールを行わないらしい。
アミューズグールと合わせて出されたのは、日本酒。
大吟醸らしく、さらりと甘い喉越しだ。
これ、この亜空間にて開発された酒で、俺の国はおろか世界にも無いだろう。
あの転生さんの記憶を元に作り出したてぇから、恐れ入る。
しかしなぁ、食事を始めると、分身の擬似人格さん達の意識が、こちらメインになるんだが。
元々が譲渡された記憶を元に創り出した擬似人格だからな。
根底は、俺の魂に存在しており繋がってはいる。
ただ、分身体へと宿った場合、意識の大半は分身の方へな。
それが、亜空間で俺が食事をする度に、意識をコチラへ裂いてくるんだよ。
まったく。
それは、そうとしてだ。
このアミューズグールなんだが…先ほどのラムラゾールの血か?
野菜と香草および、ラムラゾールの骨とか身を煮出したスープへ、それを合してからゼラチン質で固めた感じか?
そのクラッシュジェルがスプーンにな。
いや、少なくね?
でな、口に含むと…サラリと溶ける。
へっ?
淡い味わいなのだが、シッカリと味は残る。
爽やかな軽い典雅な味わいてか?
その奥に、ラムラゾールの確かな味わいが…
これに大吟醸が、合う!
うめぇっ!
でも…スプーン一杯分なのよね、これ。
グッスン。
で、ヤサグレてチップスを。
!!!
んだぁ、これぇ!
カリ、ザク、サク、サクコリサクコリサク、コリコリコリっ。
歯応えと香ばしさが、堪らん!
しかも、この味わいときたら!
これ、芋のチップスでは無い?
いや、芋のスライスと合わせてあるのか?
2枚しか無いチップスの内、1枚は勢いに合わせて腹の中。
これは、心して食さねば!
そして挑む2枚目。
コレは薄切りの芋へ、繋ぎとして何かを…
うん、魚の擂り身か?
それと、魚の軟骨?
細い軟骨を合わせ、シート状にした物かなぁ?
なるほど、超薄切りの芋へ魚の擂り身を塗り、軟骨シートを貼り合わせ、高温の油で揚げた。
そう思える。
これが、あの歯応えの正体かっ!
しかも、噛めば噛むほどに、魚の擂り身と軟骨から、えも言えぬ味わいが!
しかも、芋が吸った油の甘味も、それをアシストしている。
で、一見、くどくなりそうな口内を、大吟醸がサラリとな。
流すのでは無い!
味わいを増すのだっ!
で、これが少量?
さらに腹が減る!
飢え殺す気かぁっ!
しかし、この軟骨シートさぁ。
作るの手間じゃね?
手が掛かってんなぁ。
そう思っているとな。
『いや、これは魚の一部だ』って、クロード様がね。
どゆこと?
『ここ亜空間で産まれた固有種でな。
どのように進化したかは、精霊たちが知ってはいる。
だが、なぜ、そのように進化したか謎である生物でな。
クリスタル・シート。
そう呼ばれておる魚だ。
体は鉛筆ほどの太さで、育てば2メートルほどの長さになるだろう。
身体も透明だが、左右に透明で大きなヒレを持っておってな。
その薄く透明なヒレを軟骨で操り、海を泳いでおる。
植物プランクトンを主食にしておるが、身に葉緑素のような物を宿しておってな。
それにて光合成も行える、不思議な生き物だ。
繁殖力が強く増え易いのだが、他の生き物に捕食され易いため増えぬな。
ここで提供しておるクリスタル・シートは、完全養殖の物であろう。
なかなか、お目に掛かれぬ品と聞いとおるよ』
そんな不思議生物が居るとは、仰天だぜっ!




