脱出!生還!そして帰還へと、エピソード8
駅馬車に揺られながら街道を行く。
う〜ん、長閑だなぁ。
近場の森では鋼糸にて倒された亜人が、森狼に喰われてますが、なにか?
自然の摂理やねぇ。
なんか違う?
しかし…どんだけ増えたんだ、アイツら?
軽い気持ちで、遺跡近くの森を…うぷっ!
「どうしました、ダイル?
酔ったのですか?
珍しい。
確か、酔い止めがあったかと」
うん、良いヤツだよな、リンってさ。
「大丈夫だ。
ちょっとだけ気分が悪くなったが、もう治ったからさ」
別に酔っちゃいないよ。
蠢くほどに居る亜人共に、気持ち悪くなっただけだ。
遺跡内は、魔術コーティングが邪魔して見えない。
だが…見えてたら、アレ以上なのか?
今の俺なら、殲滅も可能だろう。
だが…亜人が、ひきめき合う、あんな場所なんぞに行きたくもない。
っか、アイツらさぁ、臭いんだよっ!
不衛生極まりないかんなっ!
病気になるわっ!
『ふっ。
大丈夫だ。
君には状態異常無効があるではないか。
あの程度の文明が付与した効果であろうと、亜人らが居る地での病を防ぐことは可能。
さらに、精霊たちに加護されておる。
病に掛かるハズなかろ?』
いや、クロード様?
それは、それとして、あんな場所はイヤなんですが?
『ふむ。
それは、私も同意しよう』
それにしてもですね、なんで、あんなに亜人が増えてるんです?
明らかに異常ですよね?
そう尋ねたらな。
『おそらくは、あの遺跡に何か仕掛けがあったのだろう。
壁に書かれていた古代文字に、ドクトル・ベルガへルターと書かれていたが…
遺跡奥の居住区へ、彼に纏わる逸話が書かれた書物があってな。
その天才振りは、素晴らしかったらしい。
だが、その一方で奇行も目立つ方だったようだな。
勝手なことを色々仕出かしては、周りに迷惑を掛けていたらしい。
これも実験だ、が、彼が常に発する言葉だったのだとか。
ガンラも彼が造り出した物らしく、扱いに困って遺跡へ封じたそうだぞ』
なんっー迷惑なヤツだ!
バカと天才は紙一重っうらしいが、本当だなっ!
自称異世界人の記憶、良いこと言うぜ!
ん?
これって、言ったことになるのか?
それはそれとしてだ。
そろそろ、坑道へ空いた穴から遺跡へ、鋼糸が届くな。
魔術コーティングで、外部から中を伺うことはできない。
だが、内部からなら可能だろ?
そして糸が中へと。
う〜ん…
俺が通った後から、さらに増えたな、こりゃ。
俺が通ったのとは別ルートで…
なんか…うげっ!
「ちょっとダイル?
吐かないでよ。
ほら、酔い止め。
飲んどきなさい」
リンが、そう言って、酔い止めを渡して来る。
甲斐甲斐しいなぁ、まったく。
コイツは、良い嫁さんになりそうだぜ。
俺は受け取った酔い止めを、渋々と飲む。
酔ってる訳ではないんだがなぁ。
しかしなぁ、ドクトル・ベルガへルター。
アンタぁ、狂ってんよ。
どうやったら、こんな事になるんだ?
複数の亜人、異なる種族のソヤツらがな。
喰らいあい、体から同胞を産み出している。
分裂するようにな。
破壊された装置らしき物があるが、アレが原因か?
おそらくは、ドクトル・ベルガへルターが造り出した装置なのだろう。
隠し部屋だった痕跡があることから、隠蔽していたと思われる。
亜人が侵入した際に見付けたのだろうな。
こんなん見たせいで、気分は最悪だぜ!




