鉱洞での採掘依頼、エピソード10
香辛料と塩は、腰のポーチへ入れて来ている。
これが有るのと無いのとでは、食の進み方がなぁ。
っても、これは個人用だからな。
皆の前では出してない。
採掘チームの食事については、採掘クラン持ちだったからなぁ。
あちらが用意した調味料を使用していたぞ。
小麦粉やパンまで持参してたからなぁ。
大したもんだよ、まったく。
乾燥野菜や干し肉も有ったが、肉は俺とゾックが狩ったし、野草や果実なんぞは、俺が見付たからなぁ。
それをリタが美味しく調理してくれた訳で…正直、干し肉と乾燥野菜の出番はなかったよ。
そんな感じの旅程だった訳でな、俺の私財を投入するシーンなんぞ無かった訳だが…今の状況を鑑みるに、持って来て良かったと言えるだろうよ。
地上から落ちて来ている小枝や枯葉を使用し、火を起こす。
これ、森ネズミどもが持ち込んだのやもな。
ちょっとした巣みたいになってからさぁ。
普通は、こんな場所へ外敵は現れないだろう。
だから良い住処だったんだと思われる。
まぁ、俺が現れなければ、だな。
森ネズミの肉とキノコ、芋を刺した金串を火にかざし炙る。
しばし待つしかあるまい。
街の連中どもは、森ネズミを食べると言ったら眉を顰めるだろうな。
ネズミって呼び方で、街中のドブネズミなんぞと同じと考えるようだ。
あんな不衛生な肉は食わん!
種類も違うが、生息している環境が違い過ぎるからな。
一緒にしてんじゃねぇてーの!
前に森ネズミを食った話しをしたことがあるんだが、そんな不衛生なのをってな。
無知なヤツだと知れたから、それからは相手にしてないがな。
しばし金串を炙った訳だが…香ばしい香りがなぁ。
森ネズミは雑食だが、どちらかと言うと草食寄りだ。
近辺の苔や水溜りの藻、キノコや芋を齧った跡がな。
血抜きも完璧な肉からは、芳しい薫りがさぁ。
肉汁も滴り落ち、焚き火に落ちると煙が上がる。
その煙で串に刺した食材が炙られ…
うん、もう少しだな。
っか、そろそろ良いか。
俺は金串から、折り畳み式の展開した器へ食材を。
流石に金串は熱くなってるから、直にはな。
先ずは肉から。
うむ。
ここの苔や藻を食べたせいなのだろうか?
いや、キノコのせいか?
なんとも言えぬ芳しい香りが、噛んだ肉から。
水菓子い感じの風味と言うのか?
まるで果物のような甘い香が仄かにな。
これが香辛料の香りと合わさってなぁ。
味も香りも喧嘩せず、互いに引き立てあってる感じか?
口の中の肉汁に陶然となりそうだが、キノコを忘れてはならんな。
コイツは初めて口にするが、先輩が高級キノコとして納品してたヤツに間違いない。
で、食った訳だが…
んだぁ、これ。
んだぁっ!
うんめぇっ!
しかも、森ネズミの肉と合う!
間の芋、邪魔じゃね?
仕方ないから食うけどさ。
……… ……… ………
ごめん、芋。
侮ってた。
まさか…こんなに美味いとは。
っか、肉とキノコから出たツユを吸って、えも言えぬ味に!
あれ?
もう無い?
あっちゅう間に食っちまったよ。
ふぅ、もう一本、焼くかね。