永遠へ
「何この石碑?」
目の前に作られた精巧な石碑に刻まれた文字を指でなぞりながら問う。刻まれた文字は彼女の作り出した文字。読める人間は一人しかいない。
「他にも作るわよ。世界のあちこちに少なくても10個は欲しいかな。目立つ場所に。それくらいあれば大きな街に行けばどこに行っても私のことを思い出せるわよ。」
満面の笑みで彼女は答える。
10年にわたる旅路。それだけの時間を過酷な旅で過ごせば多少は髪が傷み、肌にシミなどできないとおかしそうだが出会った頃と変わらぬ姿で少女は笑う。
「思い出すって。。。別に100年経とうが1000年経とうが忘れるわけないだろ。」
生まれてから26年の年月。人生の中の早ければ半分の時間だ。そのうちの10年という時間を共に過ごした思い出。
どうすれば忘れることができるのだろうか。
初めて出会った瞬間。
彼女と目が合った瞬間が今でも思い出せる。この記憶がなくなるだなんて1000年経とうがあり得ない。
「忘れるわよ。だけど私は忘れさせてあげない。何年経とうがあんたはこの石碑を見るたびに思い出すの。大陸のどこに行ってもね。横に新しい女がいたら気まずくて苦笑いでもしたらいいのよ。」
目に涙を浮かべながらイタズラな笑みを浮かべる。
「ほら!困ったらすぐ下を向く!先のことはおしまい!これから私たちはいっぱいすることあるんだから。」
すること。旅の間、彼女がいつも話していたこと。普通の生活がしたい。
死が常に隣り合わせにあるような時代に「普通」とは何かよくわからなかったが望んでいたことはわかる。そして今求められていることも。
片方の膝を地面につきカバンに入れていた指輪を取り出す。
「残りの時間を僕にくれないか?」
指輪をはめて今度は別の涙がこぼれ出す。
「ずっと忘れないでね。」
胸に顔を埋めながら願う少女の言葉。
どれだけの月日が流れただろう。
青年が独り佇んでいる。
その石碑が誰が何の為に作ったのか皆が忘れ出した頃、そこに刻まれた文字が女神文字と呼ばれ、古の魔法書だと勘違いされ全ての魔法使いの研究対象として解読が進められるなど少女は想像していたのだろうか?
していそうだ。これがなんなのか知るのは独り。ただ青年に向けられた言葉。
その文字を見つめ思い出す。
「やっぱり忘れられそうにないよ。」
つぶやき青年は佇んでいる。