魔獣狩り
うむ。僕は魔王になったらしい。間違いない。強いて言うなら現実の僕がなんか、あの、すごい重い病気とかでずっと目を覚ましてないってパターン。でも僕至って健康……だったし? 夜更かしとかしてたけど? まぁだから僕は魔王であるらしい。
そして側近達の反応的に恐らくだが……元の魔王様は大層ご立派な方だったのだろう。まぁちょっとしたイザコザで倒れたらしいが……その隙に僕と入れ替わったらしい。昨日まで 「僕」 とか敬語とか使う度にちょっとしたパニックになってたしね? 確かゲームでは……我だったかな? 嫌だなぁ。自分のこと我とか言うやつ。でもまぁ……魔王様になってしまったわけだし? なってしまったからには魔族を率いていかなきゃならないっぽいし? やってやろうじゃねぇかコノヤロー!
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私はハイネル。魔王様に仕える四天王の1人。先日魔王城に雷が落ちてきてまさか魔王様に直撃するとは思わなかった。しかも、目を覚ました魔王様がなんか色々変になっちゃってて……最初は驚いたけど、それでも魔王様が目を覚ましたことが嬉しかった。それからは他の四天王や幹部連中と会う度に魔王様の変化にパニックになる皆を落ち着ける役になった訳なんだけど……
「どうした? ハイネル?」
「いえ……なんかまた魔王様変わりました? 雰囲気というか……」
「そんなことは無いぞ? 我は元々こんな感じだ」
そんな事ないのです。こんなのおかしいのです。昨日まではどこかオドオドした頼りなさそーな子供のような雰囲気だったのに……いやそれは今も変わってないですね。何はともあれあの事故以前の魔王様では無いことは確かなのですが……
「どうした? ハイネル」
私は……たとえ姿が変わっても、中身が違くても魔王様をお慕いしておりますよ。
「いいえ。なんでもございませんよ? 魔王様」
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「王様。勇者の方ですが……」
「分かっておる。分かってはおるのだが……」
如何せん弱すぎるのだ。何故だ? 彼女は勇者なのでは無いのか? 何故勇者が
「ひえぇぇぇぇ!!! 見てないで助けてくださぁぁぁい!!!」
スライム如きに追い詰められておるのだ? スライムなぞその辺の子供でも勝てる相手ぞ? その勇者の手に持っておる聖剣を振り抜けば勝てるのだぞ?
「勇者様! 落ち着いてください! 落ち着いて聖剣をッ!」
まさか剣術指南役のアルヘイドに斬り掛かるとは……
「勇者様ぁ! そっちはダメです! とにかく今はそこのスライムをぉぉぉぉぉ!!!」
「無理ですぅぅぅぅぅ!!! 嫌ァァァァァァァァァ!!!」
……余の呼び出した勇者は思いの外弱かった。弱いなんてものではないかもしれないが。
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「魔王様。斥候が戻りました。ご報告を」
「ん? あぁ。そういえば勇者の現状を見てきてくれって言ったな? それで、どうだった?」
流石に勇者だしそれなりに強いんだろうか……
「それが……その……まだ始まりの街すら出ておらず」
「ん?」
「剣術の腕も……お世辞にも良いとはいえません」
「んん?」
「更に……そのぉ……スライムに負けそうになっております」
「んんん? 誰かの間違いでは無いのか? 勇者だぞ?」
そんな馬鹿な……勇者が? スライムに? 負ける? この世界のスライムは物理耐性も魔法耐性も全く無い、本当に弱いだけの存在だぞ? そんな訳ないだろ……無いよね?
「此度の人族の召喚魔法は……失敗したと思われます。そうでなければあれ程の弱さの勇者なぞ存在するはずが……」
「そう考えるのが妥当……か。ただし一応は勇者だ。ましてやこの世界は現在難易度イージー。ありとあらゆる事象において勇者が優遇される世界なのだから……警戒はしておくように」
「ハッ! 魔王様の仰せのままに!」
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それにしても勇者がスライムに負けるとは……難易度イージーの世界だと勇者の攻撃にも補正が入るし敵の攻撃も当たりにくくなったりダメージが減るものなのになぁ?
考えていてもしょうがない。今は弱くとも勇者である以上、僕のことを倒しに来るのは確実、今の僕がこの世界で死亡した場合どうなるか分からない以上、僕も鍛えておくに越したことは無いだろうな。よし! ちょっと幹部の皆と手合わせをしてもらおうか!
「おーい! 誰かいないかー!?」
……返事がない。そんなわけないと思うんだが……
「誰もいないのかー?」
2回目の呼びかけ。反応ナシ。と思っていたのだが、扉の外から凄い足音が聞こえ始め……
勢いよく扉が開かれた。それはもう扉が壊れるんじゃないかってぐらい勢いよく。そして
「魔王様! 人族が魔獣狩りを始めた模様です!」
は?
「今回の世界の選択は……勇者以外にも適応されている模様で……低ランク冒険者ですら参加しています。魔獣達も手も足も出ないようで……」
いやちょっと待とうよ? 何? 魔獣狩り?
「それに……その……魔獣は経験値量が豊富なので、そこら辺の冒険者たちのレベルもメキメキ上がっておりまして……」
こぉれはまずいな。とはいえその話を聞くと幹部を出しても無名の冒険者にやられる可能性すら……どうしたら……