魔王の威厳ナシ
「緊急ニュースです。先日より発生している謎の疾患について、専門家は……」
世間はここ数日で連続して発生した、ゲームをプレイしていた人が目を覚まさなくなる奇病で賑わっていた。
ある人は神隠しにあったのではないかと。
ある人はゲームのやりすぎで頭がおかしくなったと。
ある人はサイバーテロではないかと。
またとある人は遂にフルダイブ型のVRが再現されたのではないかと。
いつから呼ばれているのか、誰がそう言い始めたのかは分からないが人々はこの現象を
『ゲーマーズドリーム』
と呼ぶようになっていった
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「残念ですが息子さんは……」
「そんなッ! 先生! どうにかならないのですか!?」
「今のところ原因もわかっておらず……」
そんなやり取りが今も日本中の病院で行われている。自分の息子が、娘がある日いきなり目を覚まさなくなる。そんな事になった親の心配は……語るまでもないだろう。
済まないな。勝手にこのようなことに巻き込んでしまって。私はどれだけ謝罪しようとも許されることは無いだろう。私は大罪人だ。しかし、だからこそ私は……
必ずやあの邪神の野望を打ち砕かねばならない。宇宙に連なる世界の為にも。
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困った!ひっじょーに困った! 今目の前には魔王軍幹部の皆様がズラリと並んでいる。すげぇいろんな種族の方がいらっしゃるんだなぁ……じゃなくて!
「魔王様。勇者は未だ始まりの街から出ておりません。叩くなら今かと」
ちょっと待て! それはいくらなんでもダメだろ。
「何故です? 勇者と言えど人の子。ならば勇者として育ち切る前に叩き潰すのが正解なのでは」
そんな物騒なことを至極正論のように行ってくるコイツは……ルイドリア。竜人族らしい。この世界では人に化けられるドラゴンは竜、人に化けられない代わりに圧倒的力を持つものが龍、とされているので、ルイドリアは竜人らしい。詳しいことは知らない。だってゲームにその説明なかったもん。
「確かに、今代の勇者を倒すならそれでもいいのかもしれません。しかしそれでは今後も我々魔王軍には向かってくるかもしれません。だから魔王軍が世界を征服することを考えるならば、弱い勇者を倒すよりも、覚醒して人類の希望となった勇者を撃退するのが最も人類にダメージを与える方法だと思いませんか?」
って正々堂々言い放ったけどさ……実際まだ理解が追いついてないのよ。だってさ? ゲームやってて眠くなって起きたら手には禍々しい爪みたいなの生えてて、身長もなんか伸びてて、周りにはコスプレイヤーか? ってなるような亜人の皆様がいるんだよ? ビックリするじゃんそんなの。
まだ僕は夢の中にいる説は捨ててないし? 頭おかしくなって普段の生活がゲームっぽく見えてる説も捨ててない。いや後者は有り得なさそうだけど
「魔王様……やっぱり一旦医務室へ行った方がよろしいのでは? 皆さん困惑してますよ?」
そんなこと言われてもさぁ? 無理なもんは無理なのよ。分かんないもん! 魔王なんて!
「いや、平気だ。僕はいつも通r」
「魔王様が……僕?」
「やはり昨日のショックで……」
「魔王様……」
「非力な我ら魔族に魔王様のお力をお貸しください……パーフィルム」
お前ら失礼過ぎないか!? そして今回復魔法唱えたヤツは後で出てきなさい! まおうさん怒ってないから! 怒ってないから!
まぁでも……僕が魔王になったのは間違いない事実で、ゲームの世界って言うのも事実っぽいよなぁ……だってもう2日目だよ? おやすみーって寝て起きたらまだ、まおうさんだったんだよ?
「まぁ……魔王様がおかしくなったとはいえ、さっきの策は正しいかもしれんな。我々も無駄に何度も戦争をして、イタズラに命を散らすのは勘弁願いたいものだしな」
「あらぁ? まさかアナタからそのような言葉が聞けるとは……ねぇ? アズメラ?」
アズメラ。魔王軍幹部随一の脳筋思考で僕も何度かストーリー進行で邪魔をされたな……脳筋の癖に時々とんでもない作戦でこっちを翻弄してくる厄介な敵だった記憶がある。確か種族は……デミヒューマニーだったかな?
「そういうラステパンナはいつまで経ってもネチっこい戦法ばかり思いつく訳で……いい加減そのネチネチとした性格、直したらどうなんだい?」
ラステパンナ。スライム族の中でも特殊な変異を遂げた特殊個体。変幻自在なその姿で勇者パーティを混乱に陥れる敵だった。味方に化けて出てきたこともあったから、迂闊に攻撃もできなくて凄い苦戦したんだよなぁ……
そして、この2人ほんっと仲悪いよな。さっきからずっと喧嘩してるよ……確かゲームだとこの2人を同時に相手すると仲間割れ起こすんだよなぁ
「あのぉ? 2人ともそろそろ辞めにしてちゃんと作戦を」
「「魔王様は黙ってて(ください)!!!」」
あれ? 僕って一応魔王なんだよね?