始まらない物語と始まりそうな物語
あれから少し起きて待ってたけどダウンロードは終わらなかった。ネットでもダウンロードに時間がかかったって話は聞いてたけど、それでもみんな3時間もあればネット環境が弱くてもダウンロード終わったって聞いてたんだけどなぁ。
「あっ! おはようみかおくん!」
「あぁ、おはよう。あおいさん」
朝教室に入ったら声をかけてくれるあおいさん、ほんと可愛いよなぁ。
ってそんなこと考えてる場合じゃねぇや! 朝先生が来るまで少しでもアープロファンタジーについて調べておかなきゃ。ネタバレはされたくないけど、皆の反応とか気になるし!
そんなこんなで先生が来るまでの10分ぐらいスタートダッシュを決めた人達のレビューとかを読み漁った。結果は、めちゃくちゃ期待度が上がった。正直今すぐに体調不良で早退してでもやりたい! まだリリースされて2日目だからネタバレ配慮して貰えてるし、凄く楽しそうなゲームだって事だけが伝わってくる。
でも気になるレビューもいくつかあった。多くはバグが多いっていう話だ。正直最近のゲームはボリュームが多すぎてデバッグが間に合ってない印象は受ける。そのせいでリリース直後に2日ぐらいのメンテナンスなんて日常と化し始めてたりもするから厄介だよね!
まぁとにかく今日は何とか乗りきってやる! 普段はつまらないと思っていた授業もアープロファンタジーをプレイするというクリア目標があれば、道中のクエストだと思ってこなす事が出来るはずさ!
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無理! 無理無理無理ィ! 授業つまらない。なんなの? 将来こんなの覚えてて何の役に立つのさ! 政治? 知らないよ! 将来政治家になりたいヤツが独学で学べばいいじゃないかぁ!
と多分世の中の勉強が嫌いな全ての学生が考えたであろう言い訳をしたのが3限。今は昼休憩なんだけど……もう僕頑張ったよね。あと2時間あるけど、もう帰ってもいいよね?
「みかおくん、ご飯誰かと食べる約束してる?」
「えっ!? あっ、あおいさん!? いや、誰とも約束はしてないけど」
そう言うとあおいさんはそりゃもう、めちゃくちゃいい笑顔で
「じゃあ私と一緒にお昼食べよう?」
お昼食べよう〜食べよう〜食べよう〜
えっ? マジですか? 何故僕を誘うのですか? ほんとに良いのですか?
「それとも……私と一緒は嫌かな?」
「滅相もございません! 是非ご一緒させてください!」
「あはは! 何その言葉使い〜」
あぁ、幸せだ。素晴らしい幸福感だ! へっ! クラスの男共ォ! 見ているか!? 今僕はあおいさんに誘われてご飯を一緒に食べることになったんだぜ? 羨ましいだろぉ
ってなんだよみんなその目は! 怖いよ! 怖すぎるよ! 何、君たちってもしかして人、殺ったことある? その視線だけで人殺れちゃうよ? まぁ何でもいいけどね? だって僕は今から世界一幸せなお昼ご飯を食べてくるんだからね!
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お昼ご飯は最高でした。僕は今朝コンビニで買った惣菜パンしか持ってなかったんだけど
「えっ? みかおくんそれだけ!? ダメだよ、ちゃんと栄養取らないと! これ私が作ったやつだから食べてみて! 口に合うといいんだけど……」
最高かよぉ! どんな料理でも最高に感じるに決まってんだろぉ!? あぁ、美味しい。何だこの……素晴らしい高揚感。
「どうかな?」
「めちゃくちゃ美味しいよ! ホントに!」
「そう……かな? えへへ。嬉しい」
あーもう! ほんっとに最高かよ! あぁ、神様が居るなら感謝します! もうね? ホントにマジのガチ、漢字で書くなら本気本気。いやちょっと違う気もするけど、とにかく幸せだわぁ。
クラスに友達呼べる間柄の人間が居なくてよかったよ。普段からそういう奴とご飯食べてたら誘われることもなかったかもしれないし、誘われたとしてもこうして2人っきりなんて無かっただろうからね!
「あっ、そろそろ戻らないとだね」
「そうですねぇ」
「もし良かったら明日も一緒にお昼どうかな?」
え? なんだって? じゃなくて! ホントに良いのかい? あおいさんお友達多いでしょうに。なんで僕に構ってくれるのかねぇ?
「あおいさんが大丈夫なら……是非」
「ありがとう! そうしたら明日もここで!」
「おっおう。こちらこそありがとう。ご馳走様」
そう言ったあと、あおいさんは教室に戻って行った。あぁ、僕はもう少しこのままこの余韻に浸っていたいなぁ。
そう思っていたのに授業開始のチャイムは無情にも鳴り響く。
「僕も戻らないとな……あまり遅くなりすぎると先生に怒られちゃうし」
そう独り言を言ってみたけど早く戻る気にはなれなかった。