濃いヤツ
『聖守域展開 瞬!』
その瞬間トカゲ型の魔獣と校外学習中の生徒達の間に光の膜のような物が現れた。
そしてそれは瞬く間に形を変え、トカゲを覆い尽くすこととなる。
「スキルの正常発動を確認。戦闘行動継続。適正存在の排除を実行します」
酷く無機質な音声が響く。声質こそ勇者の物で間違いないが、その声には意思が込められている様子は無い。
「次、攻撃スキル発動の確認。目標は六足蜥蜴。準備完了。スキル、絶断 覇爆」
直後、光の膜の内部を一閃の光が駆け抜ける。次の瞬間には六足蜥蜴はその体をバラバラにされながら絶命した。
「勇者……様?」
ラスドーがポカンとした顔をしながら声をかけるが反応がない。
「勇者様! 勇者様聞こえてますか!?」
再度問いかけるも返事をしない勇者。そして
「あっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
勇者の叫び声が響いた。
直後、勇者はその場に倒れ込んだ。
〜〜〜魔王城〜〜〜
「魔王様! ご報告です! かの国が召喚したという勇者は最下級魔物のスライムすらマトモに討伐することが出来ない模様です」
そんなことを言ったのはグリジット。素性の分からない魔族だ。本人からゴブリンだと聞いてはいるものの、ゴブリンにしては大柄な体躯を持ち、知能も高い。今回、ハイネルが冒険者として連れていくと言うぐらいには戦闘力もある。
「そうか。それほどまでに弱い勇者……か」
「はい。ただし、覗いたステータスから、スキルは多数保有している模様。ただ、何故かスキルの使用を行わない模様です」
スキルの使用をしない……縛りプレイみたいなもんか? とはいえそんなに弱いならそもそもスキルが使えない可能性すらあるな
「ハイネルはどうした?」
「彼女ならもう暫く勇者の監視をするとの事でした」
「そうか」
まぁハイネルなら大丈夫だろう。幹部連中の中でも戦闘力は上位だしな。
とはいえ、勇者がそんなに弱いとは思えないんだがなぁ。まぁ何かしら理由があるのだろうが……放っておけば俺を殺しにくるのは間違いないだろう。
その前に何らかの手は打っておきたいものだな
「おやおやぁ? グリジット殿と魔王様ではありませんか! このような所で一体何を? ハッ!? もしや密会? あらヤダ! ワタクシも混ぜていただけませんかぁ!?」
濃いのが来た。
こいつの名前はマルフォンス。神喰族らしい。
らしいってのも神喰族ってのがそもそもよくわからん種族だ。大昔に神を殺して喰らった種族がコイツらって話ではあるんだが……
「あれぇ? もしかしてシ・カ・ト? まぁまぁ! ワタクシのことをシカトするなんてぇ!? 酷い話しよねぇ!? ホラ! 構って! ワタクシに構って!」
こんなヤツが神を食ったとか本当か? いやまぁ当時の生き残りはいないだろうが……それでもこんなやつの祖先が
「マルフォンス。やめてください。魔王様がお困りですよ」
「あら? グリジット殿が自らワタクシに声をかけてくるなんて……もしかして……ワタクシのことが? す・k」
「ふざけたことを抜かさないでくれませんか? 僕は魔王様に頼まれた勇者の偵察を」
そこまでグリジットが言った時、あからさまにグリジットがしまったという顔をした。さらにマルフォンスの顔が見る見るうちに怒りの顔に変わっていく。
「グリジット……アナタ……ワタクシに声をかけなかったのですね? 何故でしょうか? ワタクシ、伝えましたよね? もしも勇者の偵察に行くのならワタクシにも声をかけてくれと?」
「いや、急いでたんだ。いつ勇者が始まりの町を出るかも分からないから」
「それだけが理由では無い……わね? ふーん? ハイネルちゃんと一緒に? へー?」
「あーもう! ほんっとコイツ嫌い!」
「それで……ワタクシに邪魔をされたくなくて? ワタクシに声を掛けなかったと……まぁいいわ!」
おっと……思いの外怒りが解けるの早かったな? まぁ確かに偵察と言えばコイツに任せておけば良さそうではあったんだが、
それに気がついたのはハイネルたちを送り出した後だったからなぁ? 仕方ないだろ?
最近やっと魔王軍幹部連中の顔と名前を覚えられたところなんだから……昔のこの体の持ち主の魔王様じゃないんだから!
「ワタクシも勇者の偵察はしますわ。よろしいですよね魔王様?」
「あぁ。構わない。だが……勇者は相当弱いらしいぞ?」
「あら? そうなのかしら? それならグリジット殿から少し話を聞いてからにしても良さそうね?」
そう言ってマルフォンスはグリジットを引き摺りながら部屋を出ていった。
スマン! グリジット! 俺じゃお前を助けられそうにないぜ!
その後マルフォンスの部屋からグリジットの悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとかいう報告を聞きながら俺は勇者への対策を考えていた。