最弱の勇者 最強の勇者
「ただいま戻りました」
「ん? おぉ、ハイネルか! どうだった? 勇者とのファーストコンタクトは!」
「魔王様に伝えてください。勇者は史上最弱です。付いてきてもらう必要はなかったニャ。忙しそうだったのに申し訳ないニャ」
「いいんだいいんだ! 僕はハイネルちゃんと冒険ができるだけで楽しいんだからね!」
そんなこと言うコイツはグリジット。ゴブリンらしいんだけど、よく見かける薄汚い小鬼とは違いパッと見はオーガの上位種族にすら見える。実際強い。でも魔王軍幹部にはならないと言っていた。それが彼の拘りらしい。
「そんなこと言っても何も出ませんよ」
「本心だからナニかを期待してるとかじゃないし問題ないさァ!」
この人は……結局はゴブリンだニャ! 全く……
とはいえ、魔王城に居たグリジットを連れてきたのに結局勇者は弱いし、監視対象にすらならないニャ。それこそ魔王軍の諜報部隊にでもまかせておけばいいレベル……グリジットさんに申し訳ないニャ。
まさか勇者が魔獣狩りの為に冒険者を募集しているって話だったんだけど、既に向こうは2人。募集人数は1人だったから私が行ったけど……本当に残念だったニャ。
「まぁ……とりあえず私はもう暫く勇者の傍で監視を続けます。グリジットさんは……」
「あぁ、僕は直ぐにでも出発するよ。魔王様に勇者は監視するに足らずと」
「分かりました。よろしくお願いします」
「ハイよ〜」
さて、グリジットさんに魔王様への報告は頼んだ。
私の方は一応もう少しは勇者の動向を調べておくとするニャ。
まだ1日目。もしかしたら何か隠しているのかもしれ無いからね。
〜〜〜〜〜〜
「おはよぉ〜ハイネルちゃん」
「おはようございます。勇者様」
随分と眠そうな勇者様ニャ。正直今なら簡単に殺せてしまうと思う。でもしない。それをしたら、あの忌々しいルイドリアと思考が似通っているって証明になるニャ。
そもそも、私はあの半竜人が嫌いニャ。同じ獣人だと言うのに、龍の血を引いてるからって調子に乗ってるニャ。お前が引いてるのは龍じゃなくて竜なのニャ。
龍と竜じゃ全然違うのニャ! 龍の方が偉くて強いのニャ……だから私はルイドリアが嫌いニャ!
そしてそんなヤツと同じ考えをしてるなんて知られるのもごめんだニャ!
「? ハイネルちゃん、なんか急に難しい顔し始めたけど……大丈夫? 昨日寝れなかった?」
「ニャ!? そんなことはないニャ? ニャーはいつも通りニャ?」
「そう? ならいいんだけど……」
危ないニャ。ルイドリアの事となるといつもこうニャ……憎悪で頭がいっぱいになるニャ……
「勇者様、おはようございます」
「ラスドーさん! おはようございます!」
「ハッハッハ! 相変わらず元気だけは良いようで! ラスドー嬉しいですぞ!」
ラスドーさんは昨日の夜からこんな感じニャ……勇者が弱すぎたのか余程ショックだったんだと思うニャ。
可愛そうなのニャ。おじいちゃんみたいになっちゃったのニャ。
「それで……ラスドー……今日もまた魔獣……狩り?」
「そうですねぇ……勇者様が勝手に動かれるとパーティーメンバーも……動きにくいでしょうからねぇ」
「うっ……でもでも!」
「いえ、それが悪い事だとは言いませぬ。えぇ。わたくしラスドーは気が付きました。
わたくしは勇者様を過大評価していたようです。えぇ。これはわたくしの落ち度です。えぇ。……わたくしの……」
ほらなんかおかしいニャ! ラスドーさん可愛そうなのニャ!
「ら……ラスドーさん? あのぉ〜」
「それでも! わたくしラスドーは勇者様を鍛えます故! ご安心ください! 必ずや勇者様が人類の希望となれるよう!」
なんか元気になったニャ。……この人もよく分かんないニャ
「で・す・の・で! ハイネルさんも! ご協力お願いしますよ!」
「はいニャ……」
これまた大変そうですニャ……
〜〜〜〜〜〜
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「二ゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ギャぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
どうしてッ! どうしてこうなる二ゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
またッ! またッ勇者様が要らんことをぉぉぉぉぉぉぉ!!!
「二ゃぁぁぁぁぁ……ニャ? 振り切っ……た?」
「本当……ですね?」
「もう……襲ってきてない……?」
トカゲ型の魔獣はそこまで足が早くなくて助かったニャ……って……あれ? アレは……
「あれはマズい! 街の方に! しかも今日はッ! 冒険者学校の校外学習の日です!」
子供……ニャ。
確かに魔族は人族と戦争をずっとしているニャ……でも、子供は……子供はだめニャ。子供は守るべき存在ニャ!
「ニャーが止めるニャ!」
『光の神のご加護を我に! 彼の者達をお守りください! 聖守域展開 瞬!』