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有隣荘の住人達   作者: 小鳥のさえずり
第三章 有隣荘の新たな住人達
27/31

第27話 町おこしのPRアニメと水無月ソラ

4500字くらいです。ぜひ楽しんでいってください。

「私、友達が欲しかったの。」

赤いずきんを被り、見窄らしい、痩せた一人の少女が真夜中の不気味な墓場で、自分の母親のお墓の前で独りごちている。そこは石神町という深い森に囲まれた一つの町だった。

「みんな私が魔法を使うのが気に食わないみたい。魔法を使うなんてフェアじゃないんだって。正しくないんだって。そう言って皆私をいじめるの。」

しかし当然だが、お墓からは何も返事がない。

その少女は母親から受け継いだ、人間の皮で出来た分厚い魔術書にある、禁術に手をだす。それは有隣術という名の魔法だった。

「どうせ友達が出来ないのなら、嘘でもいい。嘘でもいいから、友達が欲しい。」

呪文を唱えるとお墓から、埋葬された腐った遺体が寄り集まってくる。それらの遺体が融合し、作るのに失敗したぬいぐるみのような、ひどく醜い大男が出来上がる。

「お、俺は一体・・・。」

その大男は自分を見て失望する。醜く腐っているからだ。でもその魔法少女は大男に赤ん坊をあやすかのようにニコニコしながら、語りかける。

「こんにちは!大男さん!私、アンというのよ。あなたを作った魔法少女なの!早速だけど、私の住んでいる町を案内してあげるわ!」

翌日二人は石神商店街へ行く。大男は正体を隠すために厚いコートを着て、深々と帽子を被り、恥ずかしげだ。その商店街の向こうには大きなピラミッドがある。そのピラミッドにはギョロギョロ動く巨大な目がついていて、魔王のように下界を見下ろしている。

「私、あのピラミッド嫌い。なんだか私たちを監視していて、この町から人がどんどん居なくなるのよ。中森さん!」

商店街の入り口には中森和菓子というお菓子屋さんがあり、身体が石で出来たゴツゴツしている店主が出迎えてくれる。

「やあ、アンちゃん。今日は連れがいるね、誰だいそいつは?」

「私のお友達の・・・。えーと、ジェイムズよ!、ほら、ジェイムズ、挨拶して!」

「ど、どうも。」

「やあ、こんにちは。アンちゃん、ちょうど、今みたらし団子を作っているところなんだけど、いつもみたいに見ていくかい?そのお連れさんもさ!」

「ぜひお願いするわ。」

中森さんは一生懸命団子をこねる。ゴツゴツとした岩で出来た手で丁寧に団子をこねる。奥さんは、鍋で餡を煮ている。

「ジェイムズさん、だっけ、私の身体は岩で出来ているけれど、実はそれが団子を作るのに適しているんだ。繊細さが要求されるけどね。でもこの岩で出来た手を使って何十年と団子をこねているとね、自分の手を見て、こんな私でも悪くないんじゃないかと思える日が来るんだよ。積み重ねた苦労が、繊細さが、この手を通して伝わってくる。お客さんもそんな私を見てくれている。岩のように一つのところから動かない生き方もありだなあって。」

「は、・・。はあ。」

「さあ、みたらし団子が出来たよ。召し上がれ。」

その団子はほんのり甘く、餡との絶妙のハーモニーを奏でていた。

二人はみたらし団子を食べながら商店街を練り歩く。今度はリッケンバッカーという古着屋さんに入る。

「あら〜アンちゃんじゃない。久しぶり!」

そこには緑色のモヒカンにパンクな格好のオカマのエルフが居た。

「そちらに居るのは・・・。」

「うん、私の新しいお友達!ジェイムズさん!」

「ん〜なかなかいい男じゃない?顔は可愛いし、ガッチリ系ってアタシ好みなのよ。今日はよろしくね♡」

「あ、ど、どうも。」

 三人はジェイムズに似合う古着を探して、古着の森の中を彷徨い歩く。

「古着には歴史があるの。ダメージがあるの。襟が擦り切れてたり、膝に大きな穴が空いてたり、どうして人はそういうものを求めてしまうのかしらね。でもそういう傷をどうやって他人に表現するか、演出するかでその人の魅力はものすごい化けるのよ。まるで魔法のように。魔法にかけられたように。だから古着というのは魔法が宿っている、魂が宿っている、そう思うわ。ところであなたの身体、傷だらけじゃない。つぎはぎだらけで。あなたに見繕う古着を見つけてあげるわ。」

 ジェイムズはつぎはぎだらけの革ジャンにジーパンで、アンとともに商店街を練り歩く。

「ねえ、あの大男のファッション、斬新じゃない?」

「ね、一見すると汚いけれど、なんだかイけてるわ。」

道ゆく人達がジェイムズに注目する。ジェイムズはなんだか七五三の子供みたいに恥ずかしくて下を向いて歩いている。

「カフェでゆっくりしていきましょ!」

それは商店街の片隅にある喫茶スズランという名前のカフェであった。店内に入ると様々な人でごった返していた。

「あ、魔法使いだ。」

「おーい、魔法使いが来たよ!」

「横にいる大男は何?」

学生の女の子の集団がアンを悪く言う。大男は怒りでプルプル震えていた。

「いつものことよ、さあお茶にしましょう。」

「ご注文は。」

こ綺麗な七三分けの小人がオーダーを貰いにくる。

「あ、芹沢さん、いつもありがとう。」

「ウインナーコーヒーを一つ。」

「私はアイスカフェラテとサンドイッチで。」

「承りました。」

「あの、不躾な質問で申し訳ないのですが、芹沢さんは今の仕事に満足していますか?」

芹沢さんは突然の質問で、少し戸惑う。

「え・・・ええもちろん。店長は優しくしてくれるし、ここで店員をやっているのは森の中で生きていけなくなったエルフや小人達です。そしてお客さんは自分の我慢してきたこと、努力してきたこと、自分の弱い部分、そういうことをオープンに話す人が増えて。私はこの友人の待ち合わせ場所のような喫茶店に誇りを持っていますよ。」

 芹沢さんは厨房に去っていく。厨房では小人達がせっせと働いている。大男はアンに告白する。どうして僕を生み出したの。一般社会には馴染めないし、誰にも正体を明かせない。僕はこれからどうしたらいいの。

「大丈夫よ。世の中の誰も理解してくれなくても、私がここにいる。あなたは作り物かもしれない。ウソなのかもしれない。でもね、ずーっと私の友達でいて欲しいの。ウソだって本当になっていいと思うの。少なくとも今の私にとってあなたは現実よ。そしてこれまで会ってきた中森さん、古着屋の店主、芹沢さん。彼らもあなたにとっては現実よ。」

「確か僕にかけた魔法を誰かが破棄すれば僕は死ぬけれど、その代わり君の願いを一つだけ叶えられるんだったね。」

「急に何を言い出すの?私嫌よあなたがいなくなっちゃうのは。いいのよあなたが死体でも。」

「でも君が本当に望んでいるのは人間の友達が出来ることじゃないのかい?本当の友達が。そして本当は、君はあのピラミッドが無くなって欲しいんじゃないかい。いやこの町の全員が。僕は皆の犠牲になっても、あのピラミッドを無くそうと思うよ。だってあれがあったら、皆生きづらいし、理想の為に死ぬのはとても人間的な行為だ。僕は本当の人間になりたいんだ。」

ジェイムズはピラミッドに向かって、死を決意した騎士のように走り出す。

「待って、行かないで!」アンは追いかける。

「あらジェイムズちゃんじゃない♡」

「ジェイムズさん、どこへ行くの?」

町の皆が気にかけてくれる。ジェイムズは機械のようにぎこちなく微笑む。

 ジェイムズはピラミッドの前に到着する。するとピラミッドはその巨大な眼球から、レーザービームを発射し、ジェイムズは一瞬で溶けてバラバラになる。ある意味元に戻ったのだ。

「ああ、そんな・・・。」

ジェイムズは皆の犠牲になったのだ。アンは覚悟を決める。

「ああ、どうかピラミッドがこの世界から無くなりますように。そしてこの町の皆が安心して暮らせるようになりますように。誰に監視されることもなく、管理されることもなく。消されることもなく。」

ピラミッドはその内部に溜めていた力を解放し、ジェイムズ同様中心を無くしてバラバラになってしまう。二度と元には戻らないだろう。

アンはそれから町の英雄になった。人気者になった。人間の友達も出来た。

「ごめんね、私、アンのこと誤解していたみたい。」

「今度魔法を教えてね。」

ピラミッドのないその町は誰も拒むことなく、卑下することなく、ただそこに存在しているのだった。

ただアンは気掛かりだった、街角の暗がりから、夜の闇から、またジェイムズが顔を出してくれるのではないか?いつかまたジェイムズが戻ってきてくれるのではないか?それを期待せずにはいられなかった。ジェイムズは誰よりも人間らしい人間だった。たとえ本当は死体だったとしても。


「なんだこの動画は!」

水無月ソラはサイバーステラ社の大雑把な綺麗すぎるオフィスで、大人しそうな秘書に当たり散らす。

「このピラミッドとかいうのは、うちのショッピングモールのことじゃないか!」

「いやしかし、再生回数がねえ。すごい伸びようなんですよ。このyoutubeチャンネル。」

「こんなチャンネル、うちの会社の力で消してしまえないのか!」

「しかしですね・・・。ショッピングモールの売り上げも、安定していますし、そんなに重要視するべきかどうか・・・。」

「お前は甘い!」水無月ソラはバンッ!とデスクを拳で叩く。

「うちの会社の目標は、社会を管理することだ。正しく、管理することだ。売り上げが安定していればそれでいいわけではない!地球温暖化!人口爆発!各地で起こる民族衝突、戦争!石油の枯渇!児童ポルノの氾濫!これらは正しい管理の下で適切に処理されなければならない!自分の仕事がどういうものか分かっていない者などこの会社にはいらない!お前はクビだ!」

秘書がスゴスゴとオフィスを出ていく。部屋の暗がりに居た頑迷寺重蔵が水無月ソラに進言する。

「なあ、ソラ、少し休んだ方がいいんじゃないか。この有隣荘チャンネルってのが俺たちの理想の邪魔だってのは分かる。再生回数の伸びようから言って危険視するのも分かる。でもそんなに一々目くじらを立ててたら、キリがないよ。石神町なんて東京の端っこにある、ちょっとした地域じゃないか。それにこんなに秘書をクビにしていたらキリがないよ。」

「僕は自分が正しいことをしているのに、それを敵視してくる奴が気に食わないんだ。」

「分かったよ。俺はこの有隣荘ってのをちょっと訪問してみようと思うよ。偵察してくるよ。だからソラは少し寝てくれ。昨日なんて30分も寝られてないんだろ?」

頑迷寺はサイバーステラ東京支社から車に乗り込み、石神町へ向かう。

「全くお坊ちゃんは困ったもんだね。俺から言わせれば神経質すぎるよ。昔からの友達だから、味方はするけど、有隣荘チャンネルの言っている事ってそんなに間違っちゃいないと思うんだよな。なんとなくだけど。」

「頑迷寺さんの勘は良く当たりますからねえ。」

「そうだといいけどねえ、あ、途中でちょっとコンビニに寄ってくれ。コーヒーが飲みたい。」

「かしこまりました。」


中田が作ったアニメに水無月ソラはお冠のようです。何かを管理したい人間と、何かを表現したい人間は常に相容れないと思います。

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