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坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅳ 第四詩集『蟻と土』     1997年刊
85/133

その21 大企業帝国の臣民について   構造

   大企業帝国の臣民について


   1


染色された

植物組織のプレパラートを

顕微鏡で覗くと

脈管の隅々までが浮き上がる


日本人を

スライスして

光にかざすと

脳髄から毛細管まで

〈仕事〉がしみている


   2


ヤツの遊び方を見ろ

何でああムキになるんだ

遊びも仕事にしやがる


   3


目が合ったが

笑わなかった

こいつはきっと

俺をいたぶる奴だと思ったから

不快な顔をしてやった

弱さを見せると

とんでもないから

俺の〈強さ〉を

見せてやった




   構造


男がいる

よく働く

一日十時間以上は確実に働く

妻と子供がいる

妻はパートに出ている

二人は休みもとらずに働くのだが

家計はぎりぎりだ

家はもちろん持てない


男はたまに愚痴をこぼす

何かがおかしいとは感じる

近くで見る金持ちには反発するが

遠くから眺める金持ちには憧れる

知人の成功は妬ましいし

同僚に負けたくもない

仕事中毒に拍車がかかる


職場で男は苛められる

男もけっこう人を苛める

毎日の疲れはひどいが

している仕事の意味は

突き詰められるとよく分からない


半月ぶりに家族と囲む食卓

ビールで酔った男は満足する

これが分相応の暮らしだと


選挙になれば

会社の「上」の人が指示する党に

男は投票する


その党は男の暮らしを

少しもよくしない

しかし男は満足する

義務を果たしたと

 

それでも

どうしても消えない苦痛が突き上げれば

過労で憔悴した顔に

気弱い微笑を貼りつけて

遠慮がちに申し出るだろう

「もう少し暮らし向きを良くして頂ければ

 恩に着ます」





























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