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その6 切れている 坂
切れている
――職場を変わって
新参者は切れている
切れているのは楽だ
まわりの人々が
関係として立ち上がってくる
その表情や動きの一つ一つに
リアクションを要求される
それはなんと煩わしいことだろう
新参者にもいいことがある
背中を吹く
冷風が代償としても
坂
職場を変わってから
一キロほどの坂を
毎朝上る
夏になると
門に着く時には
シャワーを浴びたいほどぐっしょり
汗をかいている
門を潜って
ほっと息が抜けるが
建物に入るために
さらに上らねばならない
鉄の階段を目にすると
思いが浮かぶ
ここに
十年、二十年と勤めた者なら
その歳月が慰めとなろう
新参者には
数えるべき歳月がない
あるのは
階段の最初の段を踏もうとする
それだけは変えようもない
この汗ばんだ肉体




