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その5 吐息 頭髪をかばう歌
吐息
フィットネスクラブの
更衣室で
吐息をついた男
人気のない空間に
それは大きく響いた
勤め帰りに
汗を流しにくる
金と時間を費やし
気恥ずかしい格好もして
体を保つための
義務も果たし
ようやく今日が終った
背広を着て
革靴を手に提げ
揺れながら出ていく
シャワーを浴びた
頬だけは火照らせて
頭髪をかばう歌
髪の毛薄くなってない?
と女房に尋ねられると
いや、気のせいだろう
と応じる
白髪が増えたろう?
と女房に訊くと
そんなに変わらない
と答える
それほど呑気でもない暮らしを続けていると
相手の頭髪の衰微に
己を責めるものを
感じるらしい




