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その8 夜の電車 プラットホームの幻影
夜の電車
夜の電車は満員で
窓ガラスには
混んだ車内が映っていた
ナチスドイツが
ユダヤ人をガス室に送りこんだ列車は
超満員で
裸にされ
押し詰められた人々のなかには
苦悩を紛らすため
セックスをしている人もいたという
隣に娘が立っていたが
窓ガラスに映る彼女は
唇をひき結んで
そっぽを向いている
表情にある険は
他者との交渉を拒否している
ガス室に向かった列車の中にいた
娘達は
どんな表情をしていたろうか
プラットホームの幻影
人が倒れた
鉄でできた
大きなうちわのようなものが
その人を叩き伏せた
(人はやはり肉なのだ)
ネクタイを締めた
どこにでもいる
小市民
いつものように
プラットホームに
自信有り気に立っていたのに
一撃 だった
(肉にとどまりたくはない)
電車が動き出し
そこにまだ
生きているように立っている
その人の外殻も
流れ過ぎた




