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坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅲ 第三詩集『Recall Buddha』       1990年刊
49/133

その2 話をしている人   酒屋

   話をしている人


バス停で

人が話をしている

見つめ合って

ものを言っている

風が吹く

後頭が頷く

額に光が流れ

唇から歯が覗く


人は人と話をする

哀しいほどに

それは不可避だ

獣が体臭を嗅ぎ合うように

人も向き合わずにはすまない


生きている

営みを終えた

二人が離れていく




   酒屋


酒屋の前に停まっていた

軽トラックが動き出し

前に進入してきた

もはや夜の闇が

包みこむ道

片手をあげた運転手の

横顔のシルエットの

顎が しゃくれて 見えた


二年前

初めての同窓会の連絡に

その酒屋を訪ねた

父親らしき老人は

怪訝な顔で

東京に行っている

と告げた


中学校の階段の踊り場で

あいつから思いきり

尾骶骨を蹴り上げられた

ふざけていたのだが

飛び上がるほど痛く

ふた月ほどは

尻をずらせて椅子に座った

足が長く眼が細く

顎がしゃくれていた


卒業してから一度も会ってない

ただ看板にあいつの姓を記した

その酒屋はありつづけ

前を通ると

奴を思い出させる


あいつは東京に行ったという

俺はこの土地に舞い戻り

山を二つ越えた

つらい職場から

車を転がして帰ってきたところだ

頭の芯まで疲れて


もう会うこともなかろう

酒屋の看板に

中学生のままのあいつは嵌り

生きた心地もなく

消耗して終わる

俺の日々の

取り返しのつかなさを

眺めているのだ


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