その2 話をしている人 酒屋
話をしている人
バス停で
人が話をしている
見つめ合って
ものを言っている
風が吹く
後頭が頷く
額に光が流れ
唇から歯が覗く
人は人と話をする
哀しいほどに
それは不可避だ
獣が体臭を嗅ぎ合うように
人も向き合わずにはすまない
生きている
営みを終えた
二人が離れていく
酒屋
酒屋の前に停まっていた
軽トラックが動き出し
前に進入してきた
もはや夜の闇が
包みこむ道
片手をあげた運転手の
横顔のシルエットの
顎が しゃくれて 見えた
二年前
初めての同窓会の連絡に
その酒屋を訪ねた
父親らしき老人は
怪訝な顔で
東京に行っている
と告げた
中学校の階段の踊り場で
あいつから思いきり
尾骶骨を蹴り上げられた
ふざけていたのだが
飛び上がるほど痛く
ふた月ほどは
尻をずらせて椅子に座った
足が長く眼が細く
顎がしゃくれていた
卒業してから一度も会ってない
ただ看板にあいつの姓を記した
その酒屋はありつづけ
前を通ると
奴を思い出させる
あいつは東京に行ったという
俺はこの土地に舞い戻り
山を二つ越えた
つらい職場から
車を転がして帰ってきたところだ
頭の芯まで疲れて
もう会うこともなかろう
酒屋の看板に
中学生のままのあいつは嵌り
生きた心地もなく
消耗して終わる
俺の日々の
取り返しのつかなさを
眺めているのだ




