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坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅱ 第二詩集『彷徨』     1985年刊
47/133

その19 陋巷

こんなに輝いている闇

こんなに魅惑的な闇

中華料理店で

五目そばをすすりながら

闇を見ている

サングラスをかけた目で


憩いと言えば

それしか知らない

楽しみと言えば

それを思い浮かべる

灯に吸い寄せられる

蛾のようだ


一人卓に座り

この大衆料理店に集る人々の

慰安と平凡から

すでに一線を画された

自己を意識に浮かべて

ほぼ間違いなく苦悶を呼びよせる行為から

逃れられない自分を眺めて


窓越しにその店のネオンの輝きを眺め

闇へしか動かない陰性の自分の

蛍光灯の下でかけているサングラスの

異様、奇形に痛みつつ

知人を探る臆病な視線を

人々が躱すそのしぐさに

自分が与えている印象の

まがまがしさに怯える


それでも帰る気にはなれず


客引きが待ってくれと言った

五分間はとっくに過ぎた


ガラス戸を押して出れば

銀糸のカーテンのように

進路を閉ざす雨

雨で武装した闇の厚さに

傘もなく 声もなく

出入口に立ちつくせば

明るい照明は

針を刺すよう


〈だから

 この雨と闇の向うに

 何があると〉


押されるように

足を踏み出した途端

通りがかった知人

目が合い

泣き笑いの顔になり


雨の中を走って

闇の中を走って

その思いの中を走って


そこへなおも

なぜ


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