その19 陋巷
こんなに輝いている闇
こんなに魅惑的な闇
中華料理店で
五目そばをすすりながら
闇を見ている
サングラスをかけた目で
憩いと言えば
それしか知らない
楽しみと言えば
それを思い浮かべる
灯に吸い寄せられる
蛾のようだ
一人卓に座り
この大衆料理店に集る人々の
慰安と平凡から
すでに一線を画された
自己を意識に浮かべて
ほぼ間違いなく苦悶を呼びよせる行為から
逃れられない自分を眺めて
窓越しにその店のネオンの輝きを眺め
闇へしか動かない陰性の自分の
蛍光灯の下でかけているサングラスの
異様、奇形に痛みつつ
知人を探る臆病な視線を
人々が躱すそのしぐさに
自分が与えている印象の
まがまがしさに怯える
それでも帰る気にはなれず
客引きが待ってくれと言った
五分間はとっくに過ぎた
ガラス戸を押して出れば
銀糸のカーテンのように
進路を閉ざす雨
雨で武装した闇の厚さに
傘もなく 声もなく
出入口に立ちつくせば
明るい照明は
針を刺すよう
〈だから
この雨と闇の向うに
何があると〉
押されるように
足を踏み出した途端
通りがかった知人
目が合い
泣き笑いの顔になり
雨の中を走って
闇の中を走って
その思いの中を走って
そこへなおも
なぜ




