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坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅱ 第二詩集『彷徨』     1985年刊
44/133

その16 タナトス―死の神

ボートは木の葉

雨は滝

稲妻は闇に点滅する青白い静脈

波は頭上を飛び交う小鬼


私は感じる

タナトスが近づく


おいで

泡立つ波の底へ

永遠(とわ)なる海の静寂(しじま)


バスーンの響きのように

それは波の底から聞こえてくる


私の腕は

支える力を失う


いこう タナトス

今はお前も甘い

荒波とつき合い

身を保つ所作には飽きた

もの皆動かぬ静寂にこそ

憩いはあろう


タナトスが微笑する


タナトス

私は岩の上に落ちた種子だった

ついに根も張れず

ただ転がり続けて

干からびた


私の海は

いつも荒れていた

凪の日を

過ぎ去った幼時の幸福のように

慕っていたのに


命削る波よ

もうお前を見ることもない


海中から伸びあがる

蒼白の巨塔よ タナトス

脇の下に腕を差し入れ

私を舟べりから持上げる

高く高く差し上げ

黒雲と白波の注視に晒す

稲妻の舌が足先を舐める

沈み始める 急速な降下

疾風が両頬を切る

近づくタナトスの胸が

視界一杯に広がり

闇が爆ぜ

火に触れたような冷たさに

爪先まで痺れる


さあ 波の底へ

わだつみの殯宮(あらきのみや)

知るがいい

死の安らぎを


もはや薄れゆく

バスーンの響き


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