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坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅱ 第二詩集『彷徨』     1985年刊
40/133

その12 我(が)

燃える白い道に

赤く“氷”の小旗


氷をくれ

あいにく切れました

十分ほど待てば入りますが

冗談じゃない

いま食べてこそ氷のうまさだ


歩く

缶ジュースの自販機がある

が、氷を食べたい

それを求めて

こうして汗をかく分だけ

おいしい氷を

そのうまさのために

この渇きを弱めるべきでない

どんなものによっても


歩く

いまは仕事のためではなく

氷を食べるために


燃える白い道に

赤く咲く“氷”

しかも

座ればすぐ氷の出る店


渇きは痛みのようだ

氷でこそ癒されねばならない


軒の並びから

半分顔を覗かせた

“氷”


狭く暗い店だ

古びた木のテーブルが変に不潔だ

氷はこんな所で食べるものではなかろう

もっと窓から陽の射し入る

磨かれた白いテーブルの店で食べたい

氷が喉を通るあの愉悦の瞬間(とき)

毛ほどの不快も混じるべきでない


“氷”を吊した

両側がガラス張りの

白いテーブルのレストラン


ドアを開けると

ウェイトレスがジロリと見た

席に座ると

メニューとオシボリを突慳貪に置いて去った

注文した氷は

すぐ目の前に来た

目をつぶってかぶりつきたかった

しかし

不快だ

あのウェイトレスの態度

いらっしゃいとも言わず

この不快を抱いたまま

氷を食べていいものか

今までの辛抱が

水の泡にならないか

焼けた喉に流しこむ

冷たい甘露は

最良の心的状態で味わうべきではないのか

拒否だ この氷は


射し貫く陽の下に

またも晒す体

目がかすむ

道がゆがむ めくれあがる


なにをしている

なにが欲しいのだ

氷だ 氷が食べたい

ちがう お前が欲しいのは渇きだ

馬鹿な なぜ俺が渇きを求める

それなら炎天下を歩き続けるのはなぜだ

氷を求めてだ

氷は目の前にあったではないか

それを拒絶してお前は灼熱の道に飛び出した

ちがう

俺が渇きを求めるはずがない

はずがない はずが

ない はずが

目がかすむ

道がゆがむ

ああ めくれあがって

頭に落ちかかってくる


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