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その11 眠りの前に
ヘッドライト匍う道
夜は重いまぶた
黒でない藍
この坂をあがって
くだる
道路の中央に
ほげたままの穴
事故死
空中の青白い窓
今夜も終っていない
道路工事の赤い灯
ヘッドライト匍う道
この道も世界の一部
なのに
心象の中に刷りこまれているような
毎夜匍う道
一日はこうして終るもの
消えた日々の屍は
老いという礁を成そう
―お疲れさん
仲居のお別れ
―おやすみなさい
炊事婦のお別れ
ヘッドライト匍う道
ガソリンのように減っていく生命
この無限往復
〈いまからは自由だ〉
いつもの小さな誘惑
しかし すでに
黄色く照らし出された道は
フロントガラスに伸びあがり
覆いかぶさって
肺葉にぶらさがり
重みで破れる下端より
しみこむ瘴気
しびれていく脚
シートに落ちこむ尻
をどうする




