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その8 移動について
(移動=A地からB地へ、主として用務のために動くこと)
移動の間は夢
何しろ獣たちの間で
キバを剝き続けているので
車窓から眺める
糞と血で赤茶けたサファリランド
生きものどもが
生きることに戦慄している
掟の地
この窓ガラスの内側でなら
キバは消え
しだいに人間らしい表情になり
空想の楽しみに耽っても
肉を噛まれる恐れもない
この席でなら
心臓はやわらかに搏つ
古びたアパートの階段にも
感傷を拾いあげる
曇り空に
童謡の記憶さえ蘇える
車が停まり
うかつにも
人間膚のまま外に出れば
襲い来る一撃で
絶命する




