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その7 歴程 憩い
歴程
あのころ僕は
眠りながらふるえた
心臓が口から出そうで
あわてて起きあがり
布団に目を落した
布団の縁が
ちりちり
ふるえていた
僕の前に来ると
時間は無味になった
おののく心はいつも
そのあとの時間
に縛られていたから
深更
粗末ななりで訪ねてきた
矮小な僕の時間
酒をなめ
書物をめくり
忘れかけていた夢を取りだして
埃を拭いた
と
椅子の上から
僕は打ち落された
錘がそのまま
僕を沈めた
ふるえる眠りに
憩い
憂いの朝
外光は
剣のようだ
疎遠な輝きを
眺めていると
景色がめくれた
青い世界
水の世界
濡れた世界
底から
滾々と湧きあがる
憩いの水流
そのために没した世界
時折りのぼる気泡
体を浮遊させながら
思い切って深呼吸
肺胞の一つ一つにまでしむ水
生きをした思い
腕をのばす 脚をのばす
伸びた手足を心地よく撫でる水流
夜業のあとの目薬のように
夏の日の冷やい麦茶のように
しみわたる
藻も 魚も
水中を浮遊する人も
ここではすべてのものが
生きを支えあっている
からだがまわる
まわりながら沈んでいく
眼下の竜宮城へ
まばたきすると
窓の外は
剣が突き立つ
いつもの砂漠




