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その6 CF的世界への感懐 たばこ
CF的世界への感懐
たとえば海
オレンジの帆のヨット
白波を蹴立て
水平線を追いかける
しぶきをあびて
同胞のように笑いあい
ジョッキを傾ければ
喉仏つたうビール
おお、このうまさ
〇〇ビール!
―でも
ヨットが陸に着いたら
足が陸地を踏めば
別々の小さな穴に向って
足もとから伸びはじめる
別々の黒い細道
しほたれ うつむき
影を曳いて歩き
穴のドアを閉めれば
ほらここと同じ場所だ
たばこ
ツノ突き合いのただ中で
お前を咥える私には
ザラつく口中と胃の疼痛
だけが供給されたよ
深く吸って
くらっと酔って
ツノ突き合いに不覚をとっては
と身構える苦しさ
がせいぜいで
一口吸うと落着かぬ腰をあげ
あちらに行き、こちらに戻り
愛想を演じ、ツノ突き合い
気づけば吸える長さもなく
あじきなく
捨てるたばこよ




