表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅰ 第一詩集『帰郷』  1979年刊
26/133

その26 ばあさん

ばあさんは石段を上る

十三年

職場に続く

百段を越す石段を


職場の料理屋まで

毎日

歩いて通う

丈夫やねー

“うちは歩くのが体にいいんよ”


若い頃

行商をしていた

担ぐ荷の重みで

足が曲がってしまった


ばあさんは食器を洗う

汚れた食器が

際限もなく流れてくる

狭い固い肩

その向こうに首を落して

ばあさんは食器を洗う

時々つまみ食いに

口を動かしながら

七時間余り

座ることがない


“七十までは働かせてもらう”

ばあちゃんビールがあるよ

栓を開けただけで

下がってきたビール

仲居がばあさんに渡す

“仕事が済んだ後の一杯

 ちょっと飲むのがおいしいんよ”


下がってきた食器に

手つかずに残った料理

ばあさんは取りのけておき

仲居にすすめる

仲居の動きがとまる

経営者は小言を言う

ばあさんは神妙に聞いている

二、三日経つと

また同じことをする


深夜

ばあさんの仕事は終わる

食器はすべて

棚に静まる


ばあさんは腰を伸ばし

うまそうに煙草を吸う

電灯の光の下で

灰白の眉が伸びる


持ち帰る料理を

ビニール袋に詰め

何度か頭を下げ

左右にきしみながら

送りの車に乗りこむ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ