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その23 午後
階下の祖父母の部屋から
母が私を呼ぶ
祖父の頭から流れる血を
脱脂綿で拭きながら
気がつかなかったのかと
母は私に問う
だが私も
帰ってきたばかり
買物から帰った祖母が
部屋に入ると
祖父が俯せになって
踠いていた
荒い呼吸をしながら
祖父は頭を垂れている
額に汗が光り
サポーターのずれた膝頭が
赤くこすれている
頭は何で打ったんかねっ
いつからこけとったんかねっ
勝気な祖母が尋ねる
――わからん
力の脱けた
祖父の答はそれだけ
はあーと大きな息をして
私の顔を
遥かそうに眺める
鼻に汗の玉がある
逸らす私の眼に
祖父が一日中
眺めているテレビが
白々しい光を投げる




