130/133
その32 文弱 本の中の人生
文弱
生活の資を得る仕事のほかに
文学という仕事を抱えて
限られた時間を
やりくり算段
休むこともできず
文事に旋回する
プロペラ頭
神経は細くなり
針が落ちても
大振動
地面から浮き上がった足
腰が据わらぬ態勢のまま
憂き世の憂さとご対面
情けないほどオタツイテ
気持を一気に切迫させ
パクパクと
呼吸困難の口を開け閉め
〈落ち着け、慌てるな〉
座右の銘を担ぎ出す段にいたれば
文弱とはこのことと
いまいましく舌打ちする
本の中の人生
乗り継ぎの列車を待つ
苦痛な時間も
本を開けば
消し飛んでしまう
まこと
本の中の人生を
生きたのか
本は「理想」と「現実」を告げた
「理想」は本の中にあった
その目映さに目を奪われ
周囲の人の顔なども
よくは見なかった
その光芒を
ひたすら追いかけ
周囲の出来事は
窓外を流れる風景
に異ならなかった
青春は
本の中でこそ持続したのだ
本が指し示す
夢の眺望のなかでは
一生は世界への
束の間の関与でしかない
このショートステイで
何を為す?
夢の
ほんの一齧り




